成歩堂 龍一…黒 | |
綾里 千尋…赤 | |
神乃木 荘龍…薄橙 | |
御剣 怜侍…茶 | |
裁判官…黄 | |
美柳 ちなみ…紫 | |
尾並田 美散…緑 |
御: |
このメモの内容が、外部に もれるなど、考えられないッ! |
千: |
しかし‥‥この証人は、 メモの内容を知っていました! その内容を知っていた人物は、 かぎられています。 尾並田 美散と‥‥、メモを書いた 美柳 勇希本人‥‥ そして‥‥もうひとり。 |
裁: | も‥‥”もうひとり”? |
神: |
そう。‥‥本来ならば ”あり得ない人物”‥‥ アンタも気づいたようだな? コネコちゃん‥‥ |
千: |
‥‥はい! 被害者のメモの内容を知っていた、 第3の人物。‥‥それはっ! |
千: |
‥‥それは、この人物です。 美柳 ちなみさん。 |
裁: |
”美柳 ちなみ”‥‥? 聞いたことありませんが。 |
千: |
被害者のメモを見てください。 ‥‥こう書かれています。 <<ちなみに相談。今度こそ伝える>> ‥‥彼女の名前です。 |
裁: |
い、いったい‥‥どなたですか! 美柳 ちなみさん、というのは‥‥ |
御: |
フッ‥‥ こともあろうに、 死者を引き出してくるとは、な。 |
裁: | ししゃ‥‥? |
御: |
美柳 ちなみは‥‥ 被害者・美柳 勇希の妹にあたる。 今から5年前‥‥ある犯罪に 巻きこまれて、亡くなった。 |
裁: | ”ある犯罪”‥‥? ま、まさか! |
御: |
誘拐されて‥‥殺害された。 被告人・尾並田 美散によって! |
千: |
”殺害された”‥‥ 本当にそうなのでしょうか? |
御: | ‥‥なんだと‥‥? |
千: |
たしかに<<美柳 ちなみ>>は、 死んだことになっています。 5年前、おぼろ橋から転落して‥‥ 吾童川の急流に飲みこまれて。 しかし! カンジンの死体は 発見されていないのです! |
御: |
死亡認定の手つづきは、 すでに5年前に済んでいる! 法律的には、美柳 ちなみは すでに、死者なのだ‥‥ |
千: |
しかし、死体が見つかって いないのは、ジジツです! 5年前‥‥。美柳 ちなみさんは、 14才だったそうです。 生きていれば‥‥今年、19才。 ‥‥無久井 里子さん。 ちょうど、あなたぐらいの 年ごろですね‥‥。 |
里: | え‥‥っ! |
御: |
まさか‥‥弁護人! この証人が‥‥? |
千: |
‥‥そのとおり。 弁護側は主張します。 その証言台に立っている ”証人”は‥‥ 5年前の誘拐事件の中心人物、 美柳 ちなみである、と! |
裁: | な‥‥なんですとおおおおおおッ! |
神: |
クッ‥‥! どうやら、火事場に バクダンを放りこんじまったな。 このまま終わったら‥‥ ただのヒトさわがせな お姉さん、だぜ。 |
千: |
わ、わかってます! (彼女の正体が暴ければ‥‥ かならず、状況は変わるわ! 今度は、あの検事さんが あわてふためく番よ‥‥!) |
裁: |
ぬ‥‥ぬううううう‥‥ 証人! あなたは‥‥ いったい、ダレなのですかッ! |
里: | わたし‥‥わたしは‥‥ |
御: |
‥‥フッ‥‥ もう‥‥そのへんで いいだろう、証人。 |
里: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ はい。わかりましたわ。 |
裁: |
ど、どういうことですか! 御剣検事くん‥‥ |
御: |
裁判長。‥‥正直に告白しよう。 弁護側がここまで食い下がるとは ‥‥予想外だった。 |
裁: |
御剣検事! ま、まさか、あなたは‥‥ |
御: |
‥‥検察局を 見くびってもらっては困る。 身元のハッキリしない証人など、 この私がユルすハズがない。 |
千: | な、なんですって‥‥? |
神: |
クッ‥‥! どうやら‥‥ ボウヤは、知ってやがったのさ。 彼女の正体を‥‥最初っから、な。 |
千: |
そんな‥‥! じゃあ、どうして! |
神: |
アンタが暴かなければ、 触れないつもりだったんだろう。 必要なのは、<<証言>>だった。 それが、取引ってヤツさ。 |
御: |
‥‥紹介しよう。 被害者の妹にあたる‥‥ 美柳 ちなみさん、だ。 |
裁: |
し‥‥しかし! 5年前に 亡くなったのでは‥‥? |
御: |
われわれもそう考えていた。 しかし‥‥そうではなかった。 |
千: |
いったい、なぜ! 5年間も 身をかくしていたのですか! |
御: |
‥‥それは、今回の事件とは 関係のないことだ。 彼女は、たまたま 事件を目撃しただけ‥‥ |
千: |
”たまたま”‥‥? そんなはず、ないでしょう! あなたは、5年間も <<被害者>>の仮面をかぶっていた! そして‥‥今回も! 殺人現場で 疑わしい行動をとっています! |
御: |
‥‥弁護人のウスっぺらい たくらみは、見えている‥‥ おおかた、被告人の無罪を 勝ちとるために‥‥ この証人に、無実の罪を 着せようというのだろう。 |
千: | ‥‥なんですって‥‥! |
御: |
しかし‥‥考えていただきたい。 今から5年前、彼女は‥‥ 誘拐され、殺害されかけた ツラい過去を抱えているのだ。 |
裁: | ぬうううう‥‥ |
御: |
そして、何より‥‥ 美柳 ちなみは、被害者の たったひとりの妹なのだ。 りっぱな刑事である姉を 殺害する理由など、ないッ! |
千: | うううううッ! |
裁: |
‥‥検察側の主張は、 もっともだと考えます。 弁護人! あなたは 立証できると言うのですかッ! この、キノドクな証人が、 お姉さまを殺害した理由をッ! |
千: |
そ、それは‥‥‥ (追いつめたつもりが‥‥ いつのまにか、逆転されてる!) |
神: |
クッ‥‥! 目をさましてやろうか、 コネコちゃん‥‥ ‥‥弁護側には、証人の動機を |
千: |
あ! 今のは、私じゃなくて、 このコーヒーのヒトが勝手に‥‥ |
御: |
ヘタなハッタリは やめていただきたいな‥‥キミ。 |
神: |
クッ‥‥! ボウヤ。なぜ ハッタリだとわかる‥‥? |
御: |
そこの弁護士が、イチバン あたふたしているからだッ! |
千: |
え‥‥! (そりゃ、あたふたするわよ!) |
神: |
‥‥アンタは今、この状況を ピンチだと考えている。そうだろ? |
千: | あたりまえですっ! |
神: |
‥‥ちがう。 今は、ただ<<勝負時>>なんだ。 ピンチか、チャンスか? 決めるのは、アンタ自身なのさ。 |
千: | (私自身が‥‥決める‥‥) |
御: |
‥‥フッ。若さゆえの暴走、か。 ほほえましいな‥‥ |
千: | (私より若いくせに) |
裁: |
それでは、弁護側の考えを うかがいましょう。 この証人が‥‥実の姉である 美柳 勇希を殺害した”動機”は! |
千: |
‥‥尾並田さんの脱走が、 すべての始まりでした。 彼に呼び出された勇希さんが 書いた、このメモ‥‥ こう書かれています。 『ちなみに相談。今度こそ伝える』 ‥‥美柳 ちなみは、勇希さんから 宣告されたのです。 <<すべて、世間に公表する>> ‥‥と。 |
裁: | ”公表”‥‥? |
千: |
美柳 ちなみと被害者の間には、 大きなヒミツがあったのです。 だから、美柳 ちなみは 姉を殺害しなければならなかった! その口を、永久にふさぐために! |
御: |
‥‥アマいな、弁護士クン。 それでは、だれもナットクしない。 その”大きなヒミツ”とやらが、 いったい、なんだったのか‥‥? それが立証できないかぎりは! |
神: |
美柳 ちなみ、勇希、そして 尾並田 美散‥‥ 3人をつなぐ”大きなヒミツ”。 ‥‥1つしか、ねえぜ。 |
千: |
ええ。‥‥わかっています。 ‥‥裁判長! 弁護側は、 証言を要求します。 |
裁: |
い、いったい‥‥なんの 証言ですかな? |
千: |
5年前の誘拐事件について。 そこにコタエがあるはずです。 美柳姉妹の、”大きなヒミツ” ‥‥その正体が! |
ち: | ぐっ‥‥! |
裁: |
‥‥わかりました。 証言をおねがいしましょう。 ツラい記憶でしょうが、 話していただけますね? |
ち: |
え、ええ。 もちろん、かまいませんわ‥‥ |
千: |
(いよいよエガオが キレイね、ちなみさん‥‥ ‥‥でも。 それも、これが最後よ!) |
ち: |
『5年前‥‥わたし、尾並田さまに 誘拐されましたの。』(証言1) 『身代金は、ダイヤの原石でした。 おぼろ橋の上で、お姉さまは‥‥』(証言2) 『取り引きが終わったとき、 尾並田さまの右腕を撃ちましたの!』(証言3) 『尾並田さまは、わたしを殺すために 背中を押して、つき落としました!』(証言4) 『わたし‥‥美柳家のムスメでいる のが、コワくなってしまって‥‥』(証言5) 『それ以来、身分をいつわって、 今まで生活してきたんです‥‥。』(証言6) |
裁: | ぬうううううう‥‥ |
御: |
‥‥誘拐事件が、彼女のココロに 大きなキズを残したのだ。 美柳家を去り、姉の協力を得て 第二の人生を歩んでいた。 それなのに‥‥その姉を、殺害? ‥‥考えられぬッ! |
裁: |
事情は、わかりました。 ‥‥弁護人。 |
千: | は、はい。 |
裁: |
お聞きのとおり、証人は今もなお、 ココロにキズを負っています。 ‥‥くれぐれも、尋問には 気をつけてもらいたいですね。 |
千: |
(‥‥また、先手を 打たれてしまった‥‥) |
神: |
クッ‥‥! ここまで来たら、 カケヒキなんざ、ねじふせろ。 ‥‥いいか。オレたちには1つ、 切り札となる情報があるんだぜ。 |
千: | ‥‥なんですか! |
神: |
決まってるじゃねえか。 オレたちは、知っている。 5年前の<<誘拐事件>>が‥‥ すべて、狂言だったことを! |
千: |
(<<狂言誘拐>>‥‥。控え室で、 尾並田さんは言っていた) |
尾: |
『アイツの言うコト、なんでもやる。 ちなみに言われたコトだったら‥‥』 |
千: |
『じゃあ‥‥5年前の 誘拐を計画したのは‥‥?』 |
尾: |
『オレと、ちなみ。 ‥‥勇希も、仲間だった。』 |
千: |
(そう‥‥この<<狂言誘拐>>を 立証するの、千尋! それこそが、彼女の ”ヒミツ”なんだから‥‥) |
千: |
‥‥尾並田さんが、あなたを 吾童川へつき落とした‥‥ それは、あり得ないの。 |
ち: |
で、でも! わたし、背中を押されて‥‥ まちがいありません! あれは、尾並田さまでしたわ! |
千: |
どうやら‥‥私の言い方が 悪かったようね。 <<あり得ない>>というより‥‥ むしろ、<<不可能>>だったのです。 |
ち: | ふ、<<不可能>>‥‥? |
千: |
事件の舞台となった、おぼろ橋‥‥ 思い出してごらんなさい。 5年前の現場の状況は、 現在とまったく変わっていません。 ‥‥もし、あなたの言うとおり、 背中を押されたとしたら‥‥? ‥‥そこには、川は流れていない。 岩場が広がっているだけ‥‥ あなたは急流に飲みこまれることも なく、岩場にたたきつけられて‥‥ カクジツに死んでいたはずです。 |
ち: | ‥‥‥‥‥‥ |
千: |
‥‥おわかりでしょう? 美柳 ちなみさん‥‥ 尾並田 美散が、あなたを つき落とすのは、不可能だった! |
ち: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥ きゃああああああッ! |
御: |
事件が起こったのは、 もう5年も前のことだ! 吾童川は‥‥現在よりも水位が 高かったかもしれないではないか! |
千: |
橋から水面までの高さは、 12メートルもあります! 多少の水位のちがいなど、 モンダイになりません! |
御: | ぐううううッ! |
裁: |
た‥‥たしかに! 被告人には、証人を つき落とすことができなかった‥‥ おじょうさん! どういうことですかな‥‥? |
ち: |
‥‥ううッ! わ‥‥わたし‥‥あの。 それは‥‥ |
御: |
‥‥お待ちいただこう、 裁判長! たしかに、彼女は証言した。 『犯人につき落とされた』‥‥と。 しかし! 落下ポイントが <<背後>>だったとは言っていない! |
千: | な‥‥、何を言い出すの! |
御: |
右腕を撃たれた尾並田 美散は、 橋の上でパニックになった! そして‥‥証人を、 橋のワキから、つき落としたのだ! |
裁: |
たしかに‥‥それなら、 ちゃんと吾童川に落下します! いかがですか、証人! 御剣検事くんのセツメイは‥‥ |
ち: |
‥‥‥‥‥‥‥ そういえば‥‥ ぼんやり、思い出しました。 橋から落ちた瞬間‥‥ ワキのワイヤーに、スカートが 引っかかった記憶がありますわ! |
千: | なんですってェェッ! |
裁: | 静粛に! 静粛に! 静粛にィッ! |
御: |
‥‥どうやら、弁護士クンの 攻撃も、ここまでのようだ‥‥ |
千: |
(ダメ‥‥千尋! ここで 引くワケにはいかないわ‥‥!) ザンネンですが‥‥弁護側の 攻撃は、ここからです! |
御: | な‥‥なんだと! |
千: |
‥‥あなたのセツメイは、 こうでしたね? 検事さん。 ”右腕を撃たれた尾並田さんは、 橋の上でパニックになった。 そして‥‥証人を、 橋のワキから、つき落とした” ‥‥しかし! それはさらに <<不可能>>なのです! |
御: |
な‥‥何を、バカなッ! いったい、なぜだ! |
千: |
あなたの、今の主張には‥‥ 決定的なムジュンがあります! |
千: |
裁判長! ‥‥すべてのコタエは この写真にあります! おぼろ橋を両ワキで支えている ワイヤーを見てください! 肩の高さ‥‥1.5メートルまで、 しっかり守られている‥‥ ここから”つき落とす”なんて、 アキラカに<<不可能>>です! |
ち: | いやああああああああああああッ! |
御: |
ひ‥‥‥被告人の体格を 思い出していただきたい! 彼ならば、こんなワイヤーなど モンダイにならない! 14才の少女を抱え上げ、 投げ落とすことができたはずだ! |
千: |
‥‥検事さんこそ、お忘れですか? 尾並田さんは、 右腕を撃たれていたのです。 |
裁: | あ‥‥‥! |
千: |
そして、さらに重要なことは‥‥ 彼は、ピストルで狙われていた。 至近距離から‥‥勇希さんに! |
御: | ム‥‥ッ! |
千: |
尾並田さんが、証人を投げ落とす? ‥‥そんなこと、不可能なのです! |
御: | ぐおおおおおおおおおおッ! |
裁: |
静粛に! 静粛に! 静粛に! そ、それでは‥‥どういうコトに! |
千: |
美柳 ちなみさん! ‥‥あなたは、吾童川に 自分から飛びこんだのです! |
裁: |
な‥‥ なんですとおおォォッ! |
御: |
な‥‥何を言うかッ! なぜ、そんなバカげたコトを‥‥! |
ち: |
そ、そうですわ! わたしには、お姉さまが ついていたのです! ピストルと‥‥手錠も持って。 わたしを助けてくれたのに‥‥ あんな急流に自分から 飛びこむなんて、自殺行為ですわ! |
千: |
それでも‥‥あなたは 身を投げたのです! きっと、急流を泳ぎきる 自信があったのでしょう。 そして、何よりも‥‥ 証人には、飛びこまなければ ならない理由があったのです! |
御: |
いったい、なんだというのか! ‥‥その、理由とはッ! |
千: |
”証人が生きていた”‥‥その ジジツが、すべてを物語っている! あなたが、イノチをかけて 吾童川に身を投げた理由は‥‥! |