成歩堂 龍一…黒 | |
綾里 千尋…赤 | |
神乃木 荘龍…薄橙 | |
御剣 怜侍…茶 | |
裁判官…黄 | |
美柳 ちなみ…紫 | |
尾並田 美散…緑 |
千: |
‥‥今から、5年前‥‥ 美柳 ちなみとともに消えたものが もう1つ、ありました。 <<身代金>>として犯人にわたった、 2億円相当のダイヤ‥‥その原石! |
ち: | ‥‥‥! |
御: |
あああああああああッ! ま‥‥‥まさか‥‥‥ッ! |
千: |
すべては、最初から 仕組まれていたのです! 2億円の<<身代金>>‥‥すべてを ひとりじめするためにッ! 尾並田さんに協力させて、 誘拐のシバイをして‥‥ |
千: |
最後の瞬間‥‥彼をウラ切って、 あなたは急流に身を投げた! 自らの<<身代金>>を、背中の リュックサックにかくしたまま‥‥ |
御: | そんな‥‥そんな、バカなああッ! |
裁: | 静粛に! 静粛に! 静粛に! |
御: |
し、しかし! 5年前といえば‥‥ 証人は、まだ14才だ! ‥‥そんな、悪魔のような 計画など、実行できるわけが‥‥ |
千: |
その証人は、悪魔だったのです。 そして‥‥その悪魔に魅入られた 協力者が、もうひとりいました。 ‥‥美柳 勇希さん。 彼女の、お姉さんです。 |
裁: |
ひ、被害者が‥‥ 誘拐事件の協力者ッ! |
御: |
刑事である美柳 勇希が、 妹の犯罪に手を貸したというのか! |
千: |
そのとおりです! ‥‥きっと彼女は、この5年間、 苦しみつづけてきたのでしょう。 だからこそ‥‥ 今回の事件が起こった! |
裁: | ‥‥どういうことですか? |
千: |
事件当日‥‥ 尾並田に呼び出された被害者は、 美柳 ちなみに連絡した。 そして、彼女に告げたのです。 ‥‥自らの<<決意>>を。 |
裁: | ‥‥けつい‥‥とは‥‥? |
御: |
<<すべて、世間に公表する>>‥‥ メモに書かれた、このコトバかッ! |
千: |
その行動が‥‥勇希さんの 運命を決定づけてしまった‥‥ あなたは一瞬にして、ふたたび 悪魔のような計画を練り上げた。 5年前の狂言誘拐の協力者‥‥ ふたりの口を、同時にふさぐ! そのために、あなたは‥‥ お姉さん‥‥美柳 勇希さんを 殺害したのです! |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥くすっ。 | |
裁: |
だ、ダレですか! こんなときに‥‥ |
ち: |
ゴメンなさい。 なんか、おかしくて‥‥。 |
裁: | しょ‥‥証人‥‥? |
ち: |
‥‥おもしろいヒトね。 アヤサト チヒロさん‥‥ |
千: | ‥‥‥! |
ち: |
ずいぶんイセイのいい お話だったけど‥‥ トーゼン‥‥証拠は 見せてもらえるんでしょうねえ? |
千: | しょ、証拠‥‥? |
ち: |
わたしが、死刑囚や女刑事と 手を組んでいたこと‥‥ それを立証する証拠よ。 決まってるでしょ? |
千: | そ、それは‥‥‥ |
ち: |
ああ。あと、もう1つ。 ‥‥2億円のダイヤが どうなったのか‥‥? せめて、それぐらいは 立証してもらいませんとねえ‥‥ |
裁: |
ぬうううううううむ‥‥ 弁護人。いかがかな? |
千: | わ‥‥‥わかりません‥‥ |
ち: |
お話にならないわね。 アンタ‥‥バカじゃないの? |
千: |
‥‥ぐ‥‥っ! (5年前の狂言誘拐を、これ以上の カタチで立証するのは不可能! 美柳 勇希の殺害にも、 決定的な証拠は、何もない‥‥) |
裁: |
どうやら‥‥ 結論が出たようですね。 正直なところ、証人のタイドには ギモンが残りますが‥‥ 本法廷は、弁護側の主張を 却下せざるを得ません。 |
ち: | トーゼン‥‥でしょ。 |
千: |
(これで‥‥ これで、おしまいなの‥‥? あんな子にバカにされて‥‥ 返すコトバがないなんて!) |
神: |
クッ‥‥! 証拠がなければ、審理はおしまい。 そんなコト、だれが決めた? |
千: | か‥‥‥神乃木さん! |
神: |
いいか、コネコちゃん。 ルールは、自分で決めるモンだぜ。 ‥‥たとえ証拠がなくても‥‥ 証言という手がある! |
千: | (‥‥<<証言>>‥‥?) |
神: |
事件当日‥‥美柳 ちなみは 姉の美柳 勇希を殺害した。 その死体をトランクにかくして、 おぼろ橋で尾並田に会った‥‥ 姉・勇希になりすまして、な。 ‥‥そいつが、アンタの主張だ。 |
千: | そ、そうですけど‥‥ |
神: |
それなら‥‥たったひとりだけ いるじゃねえか。 その犯行を立証できる、 <<証人>>が‥‥! |
千: |
(証拠がない以上‥‥ 残された手段は、ただ1つ! 彼女の犯行を証言できる <<証人>>とは‥‥?) |
千: |
‥‥裁判長! 弁護側は‥‥ 新たな証人を要請します! |
裁: | ‥‥証人‥‥ですか? |
千: |
尾並田 美散‥‥彼の証言を 聞く必要があります! |
御: | 被告人、だと‥‥! |
千: |
美柳 ちなみが、この事件に 関わっているか、いないか‥‥? そのカギをにぎっているのは、 たった1つのポイントです。 この写真の人物は‥‥ 本当に<<美柳 勇希>>だったのか? それとも、姉になりすました <<美柳 ちなみ>>だったのか‥‥? ‥‥それを証言できるのは、 たった1人しかいません。 ジッサイに彼女に会った人物‥‥ 尾並田 美散です! |
裁: |
‥‥いかがかな? 御剣検事くん‥‥。 |
御: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ いいだろう。 ‥‥検察側に、異存はない。 |
裁: |
‥‥わかりました。 係官! 被告人を、証言台へ! |
千: |
(これが‥‥最後の手段なの。 尾並田さん‥‥ 美柳 ちなみの罪を 立証できるのは‥‥ もう、あなたの証言しかない!) |
裁: |
今までのこと‥‥ 聞いていましたね、被告人。 |
尾: |
‥‥うう‥‥オレ。 信じない。ゼッタイ。 チナミ、死んだ! 5年前! ウラ切ったの、ユウキ! |
千: |
尾並田さん‥‥ 5年前、彼女があなたに 何を言ったかは知りません。 でも‥‥彼女は生きていた。 あなたは、利用されたの。 2億円を手に入れるために‥‥ |
尾: | ウ‥‥ソ‥‥ダ‥‥ |
裁: |
‥‥被告人。 問題は、たった1つです。 あなたが2日前‥‥おぼろ橋の上で 会ったのは、だれだったか? 被害者の美柳 勇希だったのか? 美柳 ちなみだったのか‥‥! |
尾: |
チナミ‥‥チナミ‥‥ オレを‥‥ウラ切った‥‥? ‥‥‥‥‥‥‥‥ アイツ‥‥言ってた‥‥5年前。 オレたち、死ぬまで‥‥ |
ち: | ‥‥ミチルさん‥‥ |
尾: |
チナミ! オマエ、やっぱり‥‥ 生きてたのか‥‥ッ! |
ち: |
わたしを‥‥お疑いなのね? ‥‥しかたのないコトです。 |
尾: |
教えてくれ! ホントのコト! オレ‥‥オマエ、信じてた‥‥ |
ち: |
‥‥‥コトバはいりませんわ。 あなたなら、わかるはず‥‥ |
尾: | ‥‥‥! |
ち: |
ただ‥‥1つだけ、 ハッキリしています。 ‥‥わたしの運命は、 あなたがにぎっているの‥‥ |
尾: | チ‥‥ナ‥‥ミ‥‥ |
裁: |
証言は、ただ一度。 ‥‥それ以上は認めません。 それでは、被告人。‥‥本法廷、 最後の証言をおねがいします! |
尾: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: | 証人! |
尾: | うがががああああああああああッ! |
裁: |
ひゃああ! ゴメンなさい! ゴメンなさい! |
尾: |
うぐぐぐぐ‥‥セ、センセイ! ‥‥み、ミズ。ミズ、くれ‥‥ |
千: | ‥‥え。 |
尾: |
しゃべれねえ‥‥ ノド、カラカラ‥‥ |
神: |
クッ‥‥! しかたねえ。 コーヒーをおごってやるぜ。 ‥‥これからアンタが吐く コトバにふさわしい‥‥ 地獄よりニガくて、 そして黒いコーヒーさ。 |
尾: | うぐぐぐぐぐ‥‥ |
尾: |
『あの日‥‥4時ごろ、おぼろ橋の たもとにクルマ、とめて‥‥』(証言1) 『まだ、アイツ、来てなかった。 だから‥‥橋の上で待った。』(証言2) 『そこからクルマ、見えてた。 死体なんか、だれも入れてない!』(証言3) 『やがて‥‥オンナがやってきた。 オレの目の前、立ち止まった。』(証言4) 『オレたち。ハナシ、して‥‥ そのまま、別れた。』(証言5) 『あれは‥‥ゆ‥‥ゆ。ユウキ。 チナミじゃなかった!』(証言6) |
千: |
尾並田さん! ‥‥まだ、彼女をかばうの! 彼女は、あなたのことを‥‥ |
御: |
‥‥そこまでだ‥‥弁護士クン。 最後の証言らしく、 明快な内容だったようだ‥‥ |
千: | ‥‥‥! |
裁: |
それでは‥‥弁護人。 尋問をおねがいします。 |
千: |
(尾並田さん‥‥それでいいの? 死刑判決を受けて‥‥ 今、また有罪になるのよ!) |
神: |
それを止められるとしたら‥‥ アンタしかいねえ。‥‥たぶんな。 |
千: |
おぼろ橋に行ったとき‥‥ <<彼女>>は、まだ来ていなかった。 あなたは、橋の上で待っていた‥‥ まちがいありませんか? |
尾: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ マチガイない。 |
千: |
そう‥‥。まちがい ありませんね、尾並田さん。 あなたは、ウソをついている。 |
尾: |
う! ‥‥‥う。お‥‥‥ えへん! ‥‥えへん、えへん。 |
御: |
‥‥聞かせてもらおうか。 弁護人‥‥ |
千: |
”どちらが先に、 おぼろ橋に来たのか‥‥”? ‥‥この写真を見れば ハッキリわかります。 どう考えても‥‥、先に来たほうが 橋の奥にいるはずですよね‥‥? |
御: |
し、しかし‥‥奥にいるのは、 <<被害者>>の方ではないかッ! |
千: |
そのとおりです。 つまり、尾並田さん‥‥ あなたは、<<彼女>>よりもあとに、 橋についたことになるの。 |
尾: | む‥‥‥ぐ‥‥‥お。あ‥‥‥ご。 |
千: |
‥‥‥‥‥‥‥‥ ねえ、尾並田さん。 もう、ムリをしないで‥‥ 本当のことを聞かせてほしいの。 |
尾: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 橋のたもとについたの、4時。 まちがいない。 |
千: | ‥‥‥! |
尾: |
オレ‥‥行くところがあった。 ヤクソクの場所‥‥ |
裁: |
おぼろ橋に行く前に、 そちらへ向かったわけですか‥‥ |
尾: |
橋から15分ぐらい歩いたところ、 古い山寺がある。 そこで‥‥5年前。 チナミと、ヤクソクした。 死ぬまで、おたがいを ウラ切らない、‥‥と。 おたがいを信じ抜くために‥‥ <<アカシ>>‥‥用意した。 |
千: | <<アカシ>>‥‥というのは? |
尾: |
5年前。境内の木のたもとに、 ソイツ、かくしておいた。 なつかしい、タイセツな思い出。 これを‥‥オレ。取りに行った。 |
「ちなみのペンダント」と同じもの) | |
裁: |
<<アカシ>>というのは‥‥ そのペンダントですか。 キレイな小ビンですな。 ‥‥カラッポのようですが。 |
千: |
裁判長! ‥‥お聞きのとおりです。 被告人は、午後4時に現場に ついてから‥‥ クルマから一度、 はなれているのです! そして‥‥往復30分ちかくの キョリを歩いた! |
御: | ぐ‥‥ッ! |
千: |
これだけの時間があれば‥‥ 美柳 ちなみは、死体をトランクに かくすことができた! |
御: | ぐおおおおおおおおおおおおおッ! |
裁: |
たしかに‥‥その時間は じゅうぶん、あったでしょう! |
千: |
(ついに‥‥ チャンスをつかんだ!) 尾並田さん! まちがいありませんよね! |
尾: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ‥‥げふっ! |
千: | お、尾並田さん‥‥? |
尾: |
もう‥‥じゅうぶん‥‥ センセイ。 |
裁: | しょ、証人‥‥? |
尾: |
オレたち、ヤクソクした。 ‥‥5年前‥‥。 もし、これから先‥‥ おたがいが信じられなくなったら、 これ‥‥ この小ビンの中身‥‥ 飲みほす‥‥って‥‥ |
御: |
ば‥‥バカな! 裁判長! ただちに、休廷を! |
尾: |
‥‥オレ‥‥バカだから。 ヤクソク、守れそうもない‥‥ だから‥‥これ、使った。 |
千: |
ダメ! もう少しなのよ! もう少しで‥‥ あなたの無実が立証できるの! だから‥‥ |
尾: |
オレ‥‥無罪になったら‥‥ 自信がない‥‥ チナミを‥‥もう、一度‥‥ 殺してしまう‥‥かも‥‥ |
千: | ‥‥尾並田さん! |
尾: |
センセイ‥‥ コーヒー‥‥ ど‥‥も‥‥ありがと‥‥ |
千: |
尾並田さああああああああああん! |
千: |
こうして‥‥初めての裁判は 突然、終わった。 判決が言いわたされることも、 勝利も敗北もないまま‥‥ 私のココロには、いやしがたい 大きなキズだけが残った。 それはきっと‥‥ この若い検事さんも同じだろう。 ‥‥そして‥‥ 真犯人・美柳 ちなみは‥‥ 美しくほほえむと、静かに 法廷をあとにしたのだった。 |
神: | ‥‥ユルせねえ。 |
千: | か、神乃木さん‥‥ |
神: |
真実は、もうそこに見えていた。 つかみそこねたのは‥‥ ただ、アマかったからだ。 |
千: |
私のせいです! ‥‥私のせいで、 尾並田さんは‥‥うううう‥‥ |
神: |
泣くな。‥‥コーヒーが しょっぱくなっちまうぜ‥‥。 |
千: |
ううう‥‥やっぱり‥‥ 私なんかには、ムリだったんです! |
神: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥ チヒロ‥‥ |
千: | ‥‥‥! |
神: |
‥‥わからねえのか? 今はまだ、泣くときじゃねえ。 オトコが泣いていいのは‥‥ すべてを終えたときだけ、だぜ。 |
千: | か、神乃木さん‥‥ |
‥‥それが、どんな事件であれ‥‥ やがては色あせて、ファイルされて ‥‥いつしか、忘れられる。 この法廷から、1年後‥‥ ぼくは、”あの事件”に まきこまれたんだ‥‥。 ‥‥あのあと、美柳 ちなみは 正式な審理を受けた。 ‥‥彼女に対する 最終的な判決は‥‥ ‥‥もちろん、<<有罪>>だった。 その瞬間、彼女はやはり、 美しくほほえんだという。 ‥‥それで、すべては終わった。 少なくとも、ぼくはそう思った。 しかし‥‥ そうではなかったことを、 ぼくは、今‥‥ あれから5年もたった、今‥‥ 思い知らされることになる。 |