王泥喜 法介…紺 | |
成歩堂 龍一…黒 | |
牙琉 霧人…紫 | |
裁判長…緑 | |
亜内検事…茶 | |
浦伏 影郎…青 | |
逆居 雅香…水 | |
成歩堂 みぬき…赤 |
裁: |
どうやら‥‥ここに至って‥‥ この事件は、まったくベツの 局面を見せてきたようです。 まことに‥‥まことに ザンネンです。‥‥牙琉弁護士。 |
霧: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
王: | 牙琉先生‥‥ |
裁: | 亜内検事ッ! |
亜: | は‥‥はああああッ! |
裁: |
検察側には、 さらなる捜査を要求します! 被告人・成歩堂 龍一に対する 容疑は、これですべて晴れました。 |
亜: | ぎゃああああああああああッ! |
裁: |
‥‥牙琉弁護士。 私としては、信じたくありません。 しかし。こうなった以上、 あなたに、緊急逮捕の命令を‥‥ |
霧: |
なるほど‥‥ これが、伝説の弁護士の キタナイ戦術‥‥というヤツですか。 |
成: | ‥‥何が言いたい? 牙琉先生‥‥ |
霧: |
裁判長、おどろくばかりです。 あなたほどのカタが‥‥ こんなコドモだましの インチキにダマされるとはね。 |
裁: | ど。どういうことですか? |
霧: |
”被告人に対する、 すべての容疑が晴れた”‥‥? ご冗談でしょう。 彼がやったのは、 無実の立証ではありません。 <<違法な証拠品>>を使って、 ツミをなすりつけたにすぎないッ! しかも。みずからの弁護人である、 この私にッ! |
裁: | い。<<違法な証拠品>>ですか‥‥ |
成: |
じゃあ、聞かせてもらおうか。 牙琉先生。 現時点で、まだ。ぼくに 疑わしい点でもあるのかい? |
霧: |
‥‥ありますよ。 たとえば、このボトル。 |
王: |
それは‥‥成歩堂さんが 飲んでいた、ジュース‥‥ |
霧: |
ごまかそうとしてもムダですよ。 ”凶器”に付着した、指紋‥‥ しかも、きわめて不自然な状態‥‥ そうですね? 亜内検事。 |
亜: |
た。たしかに‥‥付着した指紋は、 ボトルを逆手に持った状態でした。 |
王: |
‥‥‥! (たしか‥‥前にも一度。 問題になったな‥‥) |
霧: |
答えを出さず、逃げることは ユルしませんよ。 こんなふうに指紋が付着する ケースは、ひとつしかありません。 ‥‥ヒトを殴るとき。 いかがですか? 裁判長。 |
裁: | ‥‥ふむう‥‥ |
成: |
最後のあがき、か。 どうだい、オドロキくん。 |
王: | は‥‥はいッ! |
成: |
あの先生、今さら このボトルにこだわっているけど。 説明はできないのかな? こんな指紋ぐらい‥‥スパッと。 |
王: |
そ。そうですね‥‥ (で、でも‥‥たしかに。 ビンを逆手に持つなんて、 フツーじゃないような‥‥) |
成: |
キミは、弁護士さんの”暗示”に 縛られてしまっているんだよ。 |
王: | あんじ‥‥ですか。 |
成: |
‥‥もう一度。 法廷記録を見てみるといい。 そこに、ごく自然でシンプルな コタエがあるかもしれないよ。 |
王: |
(ニコニコしてないで 教えてくれればいいのに‥‥) |
裁: |
たしかに、ギモンが残る以上、 判決を下すことはできません。 いかがですかな? 弁護人。 |
王: |
(答えを出さず、逃げることは できない‥‥先生はそう言った。 ‥‥オレだって、 逃げるつもりはないぜ!) |
裁: |
‥‥それでは、 うかがいましょうか。 ボトルの指紋が”逆手”である 理由を示す”証拠品”とは‥‥? |
王: |
説明するより、ジッサイに やってみたほうが早いでしょう。 そのボトルを、 床に置いてみてください。 |
裁: | 床に‥‥ですか? |
王: |
そして、それを 取り上げてみてください。 ‥‥イスに座ったまま。 |
亜: | あ‥‥‥ |
王: |
そう。ボトルのネックの部分を 持ちますね‥‥ごく、自然に。 ‥‥そして、そのとき。 指紋は”逆手”に付着します! |
王: |
事件当夜の、 この写真を見てください。 被告人・成歩堂さんは、 いつも‥‥ ボトルを床に置いて、 ピアノを演奏していました。 つまり。”逆手”に指紋が 付着するのは、当然なのです。 |
裁: |
まさか! そんなシンプルな コタエだったとは‥‥ |
成: |
あの晩‥‥ きみと夕食を食べたっけね、牙琉。 |
霧: | ‥‥‥‥‥‥‥ |
成: |
あのときも、 ぼくはジュースを飲んだ。 |
王: |
犯行の際‥‥あなたは現場の ボトルを使って、被害者を殴った。 そして、そのとき。 ‥‥思い出したんじゃないですか? ピアノの下に置かれた、 ジュースのボトルを‥‥ だから、あなたは‥‥ ボトルをスリ替えたんです! 犯行に使ったボトルと、 ピアノの下に置かれたボトルを! |
裁: |
静粛に! 静粛に! 静粛に! いかがですかッ! 牙琉弁護士! |
霧: |
なるほど‥‥ これが、伝説の弁護士の 目くらまし戦術‥‥ですか。 |
王: | ‥‥ど。どういうことですかッ! |
霧: |
この私が ボトルをスリ替えた‥‥? そんな証拠、どこにあるのです? |
王: |
え‥‥そ。 それは‥‥その。 |
霧: |
‥‥ケッキョク、何もかもが コンキョのない言いがかり。 弁護側の”ボトル”は、やはり。 カラッポだったようですね。 |
成: | ‥‥それは、どうだろう。 |
霧: | ‥‥‥! |
成: |
‥‥裁判長。 先ほど、<<ナラズモの間>>の タナを調べていただいたとき‥‥ ”もうひとつ”おねがいしたコトが ありましたね? |
裁: |
あ。ああ‥‥たしかに。 メモをいただきましたな。 『<<ボルハチ>>店内。 ピアノの下のボトルを押収せよ』 こちらに届いておりますね。 これが、そうです。 |
霧: |
ふ‥‥フン! 指紋でも調べるつもりですか? 何か、残っているか‥‥ ギモンだと思いますけどねえ。 |
王: |
(たしかに‥‥牙琉先生なら、 そんなヘマをするハズがない! あのボトルに、”痕跡”は 残っていない‥‥!) |
成: | オドロキくん、さ。 |
王: | は、はい‥‥ッ! |
成: |
とにかく。あのボトルを 調べてみようよ。 |
王: | え、ええ。でも‥‥ |
成: | いいから、調べるんだ。 |
王: | 成歩堂さん‥‥ |
成: |
それで、この事件は‥‥ 解決するはずさ。‥‥カンゼンに。 |
王: |
なんですって! (このボトルに‥‥いったい、 何があるっていうんだ?) |
王: |
‥‥! な、中に何か入っている‥‥! こ‥‥これは‥‥ |
霧: |
な。なんだッ! そのカードは、いったい‥‥ |
成: |
思い出してくれないか。 あの、キノドクな女性の証言‥‥ |
王: | 逆居 雅香さん、ですか? |
成: | そう。あの、かわいいイタズラさ。 |
雅: |
『あの晩‥‥アタシは、たしかに オトリのカードを仕込んだ。 最後の勝負。‥‥シナリオどおりの 成歩堂の敗北。そして、身体検査! でも‥‥オトリのカードは消えた! なぜか、作戦はシッパイしたのさ。』 |
王: |
そ、そうか‥‥成歩堂さん! あなたは、その”オトリのカード” を‥‥”捨てた”んですね! ‥‥たしかに、証言している! |
成: |
『たまたまポケットに手を入れたら ‥‥カードが入っていたんだよ。』 『コッソリ見てみたら ”ハートの5”だった。 イヤな予感がしたんでね。 始末しておいたよ。』 |
裁: |
『しまつ‥‥ いったい、どこに!』 |
成: |
『かたわらに、ぼくが飲んでいた ジュースのボトルがあった。 その中に捨てておいたよ。』
|
成: |
”ハートの5” ‥‥あのときのカードだ。 あの晩、ボトルはスリ替えられた。 そして、それができたのは‥‥ 事件が起こったとき<<ボルハチ>>に いたコトを認めたオトコ‥‥そう。 きみしかいないのさ! 牙琉先生! |
亜: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
成: | ‥‥以上です。 |
霧: |
‥‥これが‥‥キミの復讐、 というワケですか。成歩堂 龍一。 |
裁: | 復讐‥‥? |
霧: |
7年前‥‥キミが弁護士バッジを 失うことになった、あの事件の‥‥ |
成: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ヒトの”過去”は、 ロジックといっしょ‥‥一本道だよ。 今さら、何をしても変わりはしない。 ぼくは、ただ‥‥ 降りかかる火の粉を払っただけさ。 ‥‥正しい方向に、ね。 |
霧: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ まあ、いいでしょう。 楽しかったですよ。 キミと戦うことができて、ね。 |
成: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
亜: |
こんな‥‥こんな、バカなッ! この亜内が‥‥またしてもッ! |
裁: |
どうやら、審理はここまで のようですな。今度こそ。 亜内検事。 牙琉 霧人は‥‥? |
亜: |
‥‥すべてを認めました。 緊急逮捕の手続き中です。 |
裁: |
しかし。いったい‥‥なぜ。 彼は殺人を犯したのでしょうか。 被害者との接点は、 なかったハズでは‥‥? |
亜: |
はあ‥‥ それはマチガイありません。 |
裁: | いかがですか? 成歩堂くん。 |
成: |
‥‥‥‥‥‥‥‥ ぼくには、なんとも 言えませんね。 |
裁: |
それに、被害者の浦伏 影郎さん。 たしか”旅行者” ということでしたが‥‥ 彼の素性も、 一切。ナゾのままでしたな。 |
亜: | ‥‥追跡調査をお約束いたします。 |
裁: | よろしい。‥‥成歩堂くん。 |
成: | なんでしょうか。 |
裁: |
またしても‥‥やってくれましたね。 7年ぶり、ですか。 |
成: |
牙琉 霧人‥‥ ぼくにとっても、 特別のイミを持ったオトコでした。 友人としても‥‥弁護士としても。 |
裁: |
彼は‥‥オソロシイほど 優秀でしたからな。 |
成: |
彼を追いつめるためには、 2つの条件が必要でした。 1つは、”不正”の入りこむ 余地のない舞台‥‥つまり、法廷。 もう1つは、”不正”の 入りこむ余地のない、役者‥‥ つまり、弁護士だった。 それが、キミだ。オドロキくん。 |
王: | オレ、ですか‥‥ |
成: |
今‥‥法曹界には 暗黒の時代が訪れている。 ”序審法廷”‥‥現在の制度が 生み出した”ゆがみ”のようなもの。 ぼくたちは、それを ただしていかなければならない。 |
王: | ‥‥成歩堂さん‥‥ |
成: |
これからだ。 ‥‥期待してるよ。 |
裁: |
それでは。とにかく、 被告人‥‥成歩堂 龍一くん。 あなたに、 判決を言いわたしましょう。 |
裁: | 本日は、これにて閉廷します! |
地方裁判所 被告人第3控え室 | |
成: |
ありがとう、オドロキくん。 やっぱり‥‥やってくれたね。 ぼくの期待していたとおりだ。 |
王: |
オレは、何もやっていませんよ。 先生‥‥ハンニンを追いつめたのは、 成歩堂さんです。 |
成: |
ぼくだけじゃ、不可能だったよ。 ‥‥今日、感じただろう? 自分の中の”可能性”を。 |
王: | かのうせい‥‥? |
成: |
ぼくにはない、”感覚”‥‥ そのうち、きみもわかるようになる。 |
王: | (もしかして、あのときの‥‥) |
王: |
『それでは。もう一度、 うかがいましょう。 ”被告人が殴った瞬間を見た” ‥‥本当ですか?』 |
雅: |
『ほ‥‥本当に。 き、決まってるさ‥‥ |
王: |
『(こ、この”感じ”‥‥ な。なんなんだ‥‥!)』 |
王: |
あれは‥‥いったい。 なんだったんですか? |
成: |
自分で探すことだね。 ‥‥そのコタエは。 |
王: |
コタエ、ですか‥‥ コタエのわからない疑問ばかりです。 ‥‥牙琉先生のコトも。 |
成: |
”なぜ、彼が殺人を犯さなければ ならなかったのか”‥‥ いつか、きみも知ることに なるかもしれないね。 |
王: |
え‥‥じゃ、じゃあ、成歩堂さんは 知っているんですか? |
成: | 手がかりは‥‥この、ロケットだ。 |
王: |
あ。ああ‥‥そういえば。 さっき、会いましたよ。 その写真の女の子に。 ‥‥ムスメさん、なんですよね。 |
成: |
そうだ。この子はぼくのムスメだよ。 ‥‥だがね。実は‥‥ きみたちのスイリは、正しかった。 |
王: | え‥‥ |
成: |
こいつは、あの晩。現場で、 彼のクビからハズしたものだ。 ‥‥あの、イカサマおじょうさんに 見られちまったけどね。 彼のモノだったのさ。 このロケットは。 |
王: |
じゃあ! あれは、 偽証だったんですか! たしか、証言しましたよね! ”これは、自分のものだ”って。 |
成: | そんなコトは言ってないよ。 |
王: | え。 |
成: |
ぼくは、こう言っただけだ。 『このロケットには、ぼくの ムスメの写真が入っている』 それは、真実だよ。 |
王: |
でも‥‥じゃあ、なぜ! 被害者のロケットに、成歩堂さんの ムスメさんの写真が‥‥? |
成: |
‥‥まあ。 お楽しみは取っておくことだ。 きみの弁護士人生は、 始まったばかりなのだからね。 |
王: |
‥‥これから、どうなるんでしょう。 牙琉法律事務所は。 (先生‥‥ なんで、あんなコトを‥‥!) |
成: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥ オドロキくん。 |
王: | はい? |
成: |
よかったら‥‥ ぼくの事務所に来ないか? |
王: |
えッ! ‥‥あの。 <<成歩堂法律事務所>>ですか? オレたちの世代の弁護士で、 知らないヤツはいませんよ! |
成: | そんな、たいそうなモノじゃないさ。 |
王: |
あ。でも‥‥たしか。 成歩堂さん、弁護士は‥‥ |
成: |
ああ。バッジなら返却したよ。 今のぼくは、もう弁護士じゃない。 |
王: |
(7年前の、ある”事件”。 今では伝説となった、 あの裁判の中心人物‥‥ それが、このヒト。 成歩堂 龍一弁護士だった。 事件の、悲しい決着とともに‥‥ 彼は、法曹界を去った) あの。もう一度、 法廷に立とうという気は‥‥? |
成: |
ぼくには‥‥法廷に立つ資格もない。 気づいていたかい? 今日の裁判には、ひとつ。 ”ニセモノ”の証拠が あったことに。 |
王: |
ニセモノ‥‥? な、何を言ってるんですか? |
成: |
本来、あるはずのなかった証拠。 ‥‥罪深い、手品の”タネ”さ。 |
王: |
(やっぱり‥‥か。 じつは、ひとつだけ‥‥ 気になっていた証拠品があった。 なんというか‥‥不自然な。 ”ニセモノ”の証拠品。 アレ、のことじゃないだろうか) |
王: |
もしかして‥‥これ、のことですか。 成歩堂さんの”ムスメさん”から もらったんですけど。 |
成: |
そう‥‥こんなもの、 現場に存在するワケがない。 犯行の後、”犯人”が まっ先に持ち去ったんだからね。 ‥‥不器用なスリ替えまでして、ね。 |
霧: |
『こ、こんな証拠‥‥ 認められぬッ! ニセモノだッ!』 |
成: |
『”ニセモノ”? ‥‥どうして そんなコトが断言できるのかな? コイツが”ニセモノ”だと 断言することができるのは‥‥ 犯行現場からカードを持ち去った、 ”真犯人”だけのハズだよ‥‥?』 |
霧: | 『‥‥‥‥‥‥!』 |
成: |
‥‥そう。ぼくに対する<<審判>>は、 すでに下されていた。‥‥7年前に。 |
王: | あなたが‥‥やったんですか。 |
成: |
‥‥そうだ。 コイツは、ぼくが用意した。 現場を見れば、真相は アキラカだったからね。 |
王: |
でも! それは弁護士として、 やってはいけないコトです! |
成: |
だから‥‥何度も言ってるだろ? ぼくはもう、弁護士じゃないんだ。 |
王: |
やっぱり‥‥ やっぱり、あのウワサは。 ‥‥ホントだったんですね! 7年前の‥‥あのウワサ‥‥ |
成: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 今となっては、もう。 どうでもいいコトさ。 |
王: |
‥‥! く‥‥。くそおおおおおおッ‥‥! |
成: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
王: | (な。殴っちまったぞ‥‥) |
成: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ‥‥これから始まるのは、 キミ自身の物語だ。 その、新しいページを開くのに、 ぼくが手助けになるのならば‥‥ 事務所の場所が書いてある。 よかったら‥‥訪ねてきてくれ。 |
王: | 成歩堂さん‥‥ |
成: |
さっきの一発‥‥ ぼくなら『くらえ!』とでも 叫んだだろうね。 それじゃ。 今日は楽しかったよ。 |
王: |
成歩堂さんは、 そう言って部屋を出ていった。 ‥‥これで、オレの最初の 事件の話はおしまいだ。 本当に、いろいろな謎が 残っちまったけど‥‥ でも。このときのオレには、 想像もつかなかった。 これらの謎が‥‥すべて。 1本道の”ロジック”で つながっていた、なんて‥‥ ‥‥ともあれ。 弁護士・王泥喜 法介の物語は、 こうして始まったんだ‥‥ |