第2話『逆転連鎖の街角』第1回法廷(その1)

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王泥喜 法介…紺
成歩堂 龍一…黒
成歩堂 みぬき…赤
裁判長…緑
牙琉検事…茶
宝月 茜…桃
北木 滝太…水
北木 小梅…青
北木 常勝…灰
並奈 美波…紫
矢田吹 麦面…黄土
河津 京作…黄緑
引田(偽)…黄
(フォントサイズをご都合に合わせて変えて、お楽しみください。量が多いので、最小が オススメ)


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6月16日 午前9時46分
地方裁判所 被告人第2控え室

王: あれ‥‥
今日は成歩堂さん、来てないんだ。
み: 足の古傷が痛みだしたから、って。
王: ”ふるきず”‥‥って‥‥
きのうはニコニコしてたけど。
み: 『みぬきがいれば大丈夫だろ』って
笑ってたよ。
王: だ‥‥大丈夫だ
オドロキ ホースケ!
今朝だって、
5時から発声練習をしていたんだし。
み: へえ!
ちょっと、やってみてくださいよ!
王: え。ああ、いいよ。
‥‥コホン。
オドロキ ホースケは、
大丈夫ですッ!
み: ‥‥‥‥‥‥‥‥
発声練習と言うより、
自己暗示ですね。
?: ‥‥だから!
オレは大丈夫だって言ってるだろ!
王: あ。おはようございます!
滝: よお、アンタ!
オレ、有罪判決なんか、
気にしねえからよ。
今日はラクにやってくれよ!
王: は。はあ‥‥
常: 滝太ッ! オマエは
また、そんなことをッ!
滝: オレはな。オヤジとちがって、
ケーサツなんか怖くねえのさ!
極道なんてのは。刑務所のメシを
食って、ハクがつくのさ!
常: オマエは
なんにもわかっておらんッ!
み: ‥‥おふたりとも、
オドロキさんより声が大きいですね。
王: (まいったな。
ケッキョク‥‥
依頼人と打ち合わせできないまま、
法廷が始まっちまうよ‥‥)


同日 午前10時
地方裁判所 第4法廷

裁: これより、
北木 滝太の法廷を開廷します。
王: ‥‥弁護側、準備完了しています。
牙: ‥‥検察側、オーケイだ。
み: あ! あのひと‥‥きのうのヒト!
検事さん、だったんだ。
王: (あれが‥‥牙琉先生の、弟!)
牙: ‥‥‥‥‥‥‥‥
裁: 牙琉検事‥‥ひさしぶりですな。
しばらく見かけませんでしたが。
牙: 遊びで始めたバンドが
大きくなってしまってね。
ミリオンヒットを3本も飛ばすと、
ファンが離してくれなくて。
裁: ‥‥そうですか。
正直、シンパイしておりましたよ。
あなたもまだ、あの事件に
縛られているのではないかと‥‥
牙: よけいなお世話さ、裁判長さん。
今日の法廷はね。
プラチナ・チケットの
ステージより価値がある。
なにしろ‥‥
ぼくの兄を蹴落としてイキがってる、
ボクちゃんの実力を
見られるんだからね。
王:‥‥!
牙: ‥‥ステージをキャンセルする
だけの価値はあるよ。
裁: わかりました。
それでは、冒頭弁論を
おねがいしましょう。
牙: その前に。‥‥つねづね
思っていたんだけどね。
法廷の、この空気。
‥‥なんか、重たいんだよなあ。
裁: まあ‥‥法廷ですからね。
牙: これじゃア、お客さんも
ノッて来ないと思うんだ。
裁: いや、だから。法廷ですから!
牙: オーケイ! 今日は、
こんな感じで行ってみようか!
王: (なんだなんだ。
このフンイキは‥‥)
牙: この、リズムのうねりに乗せて、
事件を見ていこうよ。
王: (ムチャクチャだあ‥‥)
牙: ‥‥被害者は、宇狩 輝夫。
<<宇狩外科医院>>の院長だ。
現場は<<人情公園>>。
屋台を引いている姿で発見された。
裁: いったい、どうしてまた
お医者さんが屋台なんかを‥‥?
牙: それは‥‥
この法廷で、被告人に
聞けばわかるんじゃないかな。
なにしろ。彼が被害者を撃ったのは、
マチガイないジジツなんだからね!
王: どういうイミですか?
牙: ‥‥ニラむなら、被告席の
チンピラくんをたのむよ。
なんせ‥‥彼は、犯行の瞬間を
バッチリ目撃されているんだからね。
裁: ‥‥わかりました。
それでは、その”目撃証人”を
入廷させてください。
牙: ‥‥その前に。
かたづけておきたいコトが
あるんだけど‥‥いいかな。
王: (フツーにしゃべれよ!)
み: みぬき、今。一瞬、
ギターが見えました!
裁: なんですかな? 牙琉検事。
牙: ”動機”ってヤツだよ。
チンピラくんが、どうして‥‥
宇狩外科医院の院長さんを
やっつける気になったのか?

(王泥喜「異議あり!」)
王: バカなッ! 被告人が、そんなコト
話すワケがないでしょう!
牙: それがね。今朝、被告人
本人からたのまれたのさ。
どうしても、開廷イチバンで
みんなに聞いてほしい、ってね。
裁: なんですとォォッ!

(ざわめきが起こる)
王: (‥‥カンベンしてくれよ‥‥)
み: ステージは”ツカミ”が
カンジンですからね!
オッケーじゃないでしょうか!
裁: きわめて異例なことではありますが。
被告人自身から、<<動機>>について
ハナシをしていただきましょう!

裁: あなたが、
被告人‥‥北木クン、ですかな。
滝: ”クン”じゃねえだろう!
キタキツネ一家にケンカを売ると、
後悔するぜ!
牙: 国家権力にケンカを売るヤクザ、か。
ぼくも初めて見るよ。
み: すごいんですね、滝太さんて!
王: (やめてくれえ‥‥)
裁: それでは、
とにかく証言していただきましょう。
被告人の”動機”について‥‥
被告人自身に!

(北木 滝太の”真実”)
滝: 『あの医者はな!
インチキ医者だったんだよ!』(証言1)
『ダレかが思い知らせて
やらなきゃならなかったんだ!』(証言2)
『半年前、入院したとき、
アイツはオレの手術に失敗した!』(証言3)
『しかも、そのまま
ダマって退院させやがった!』(証言4)
『おかげでこっちは、
また手術のやりなおしさ!』(証言5)
『あの日、やっとそれがわかったんだ。
ユルせるワケ、ねえだろ!』(証言6)
『だからオレは、あの夜。
あのヤローのトコへ行ったのさ!』(証言7)
裁: なんと‥‥あなたは、被害者の
病院の患者だったのですか‥‥
滝: ま。いろいろあるからな、
オレたちの世界にゃ。
しかし! あの医者はなんだ!
仁義のカケラもありゃしねえ!
裁: ふむう‥‥それでは、弁護人。
尋問を。
王: (やれやれ‥‥
初めて聞くことばっかりだぞ)

(「証言3」をゆさぶる)
王: 半年前、宇狩医院に入院した‥‥
入院の理由は何だったのですか?
滝: まあ‥‥
”名誉の負傷”ってやつだな。
牙: キミの身に何があったか、
説明してくれるかな。
滝: あれは、華汰義(かたぎ)組との
抗争のときだった。
そのとき、オレ。
ドジっちまってさァ‥‥
待ち伏せしてたヤツに
撃たれちまったんだ‥‥
牙: 手元の資料によると‥‥
”キンチョウに耐え切れず、
予定時刻の15分前に
ヒトリで乗り込んだ”とあるね。
滝: あ、あんなヤツら、
オレ1人で十分だったんだよ!
裁: そして、担ぎ込まれたのが、
宇狩医院だったワケですかな。
牙: 撃たれたのは
<<心臓>>だったみたいだね。
王: (心臓を撃たれて、
よく生きてたな‥‥)
み: みぬきも、歯で銃弾を
受け止めることはできますけど‥‥
さすがに、心臓はマズイです!
滝: 弾丸は、心臓ギリギリで
止まってたらしい。
オレはなんとかふんばったのに、
あの宇狩の野郎!
弾丸のひとつ、まともに
取り出すことができなかったんだ!
牙: ‥‥要するに、手術は
大失敗だったってコトだね。
滝: ‥‥ところが、
それだけじゃねえんだよ!

(「証言4」をゆさぶる)
王: ダマって退院させた‥‥
どういうコトですか?
滝: そのまんまのイミさ!
驚くだろ?
裁: そんなコトがあり得るのですか?
さすがに、マズイのでは‥‥?
牙: 宇狩医院長は、手術の失敗を
隠したかったみたいだね。
そのためには、
彼を退院させるしかなかった‥‥。
滝: あの大ウソつきめ!
タチが悪い極道よりタチが悪いぜ!

(「証言5」をゆさぶる)
王: それじゃあ‥‥
その弾丸は、いまも?
滝: そうなんだよ!
あのクソったれの弾丸は‥‥
今でも胸の中にあって、
心臓を圧迫し続けているんだ!
牙: ”キミの言葉は、ぼくのムネに
突き刺さったキエナイ銃弾”‥‥
‥‥ってワケだ。
これ、ぼくのバンドの歌詞だけど。
裁: そ、それは! いわゆる
”医療事故”ではないですか!
滝: 事故なんかじゃ片付けられねえ!
カンゼンに犯罪だぜ!
裁: ふむう‥‥それはたしかに、
宇狩医師にもモンダイがありますな。
滝: だろ? 死んで当然なんだ、
あんなイシャは!
王: あの。そういうコトを言うときは
弁護士のオレを通してください!
み: オドロキさん!
コシが引けてます!
裁: しかし‥‥なぜ、その”ミス”が
今になって判明したのですか?
牙: ”組”の健康診断で
わかったそうだね。
王: け。けんこうしんだん‥‥?
滝: 笑っちまうぜ! 極道がガン首
そろえて健康診断なんてよォ!
オレ、死ぬジュンビなら
いつでもできてるってのにさァ!
牙: ‥‥それを聞いて、安心したよ。
滝: え。‥‥な。なんだよ!
牙: あれ。オヤジさんから
聞いていないのかい?
キミの手術ミス‥‥
早急に手を打たないと、
イノチに関わる可能性も
あるそうだよ。
王: な‥‥なんですって!
牙: キミが抱えこんでいる”爆弾”の
資料は、宇狩 輝夫が持っていた。
文字どおり、キミにとっての
”イノチ綱”だったのさ。
滝: そ。そんな! ウソだろ‥‥
牙: こいつが、証拠だよ。
キミの診断書だ。

証拠品<<滝太の健康診断書>>の
データを法廷記録にファイルした。
牙: ‥‥自分を助けられる、唯一の
オトコを殺害しちゃうなんてね。
キミもずいぶん、
おっちょこちょいだなあ。
‥‥あっはっはっはっ。
滝: ‥‥‥‥‥‥‥‥‥
王: ‥‥‥‥‥‥‥‥‥
牙: ‥‥さて。いい感じで空気が
あたたまってきたところで。
そろそろ、始めようか。
‥‥アツい<<ギグ>>をね!
裁: は、”はじめる”‥‥?
牙: 前座はじゅうぶんさ。
”目撃者”のハナシを聞こうよ!
み: ‥‥なんか、滝太さん。
ダマっちゃいましたね。
王: オレも正直、少し動揺してるよ。
(これが‥‥
牙琉検事の作戦なのか?)

牙: ‥‥きみ。
名前と職業をおねがいするよ。
河: 河津 京作(かわづきょうさく)
と申します。
”職業”とは本来、社会に労働力を
提供して”利益”を手にするという
いわば”生存”を目的とした、活動
を指すのですが、そういうイミでは
ワタクシはある種、”無職”と呼ぶ
べき状況の下に置かれている事実を
認めるのにやぶさかではないつもり
ですが、その一方で”職業”という
言葉には通例として<<現在の身分>>
というイミが、そこに付与され得る
という事実もまた、往々にして存在
するワケなのですが、つまりこれは
日本語の持つ構造的な<<アイマイ>>
さがもたらす問題であり、ひいては
世界における、<<日本>>の閉鎖的な
イメージと文化論にも与するもので
牙: ‥‥つまり、カレが言いたいのは。
『自分は学生である』ってコトさ。
‥‥勇盟大学・3年生。
マチガイないよね?
河: 河津 京作‥‥
理工学部に、籍をおいております。
この世のすべてに好奇心を持ち、
真理の探究にココロを砕く毎日‥‥
牙: とりあえず、その好奇心を、
今は事件に向けてくれるかな。
裁: それでは、証人。
あなたが事件当夜、見たことを
証言していただきましょう。
河: <<見たこと>>‥‥と、あなたは
カンタンにおっしゃるが、そもそも
ヒトの眼球というものは2ヶ、存在
するものであり、おのおのそれぞれ
受け止めた情報を分析・分類された
のちに、脳内

(事件当夜・目撃したこと)
河: 『その夜。ワタクシは買い物の帰りに
その公園を通りかかった。その時!』(証言1)
『屋台を引いた男が目に入ったのです。
そして、向き合う、もうヒトリの男。』(証言2)
『ハッキリ見えましたよ。男は、
まちがいなく被告席のヒトでしたね。』(証言3)
『男は、手に持った‥‥そう。
ピストルを屋台の男に向けたのです。』(証言4)
『そして、1発の銃声が。真正面から、
屋台の男のおでこを撃ち抜いたッ!』(証言5)
裁: ふむう‥‥そのとき、
公園に、他にヒトは‥‥?
河: ‥‥ある種”いなかった”
そう申し上げてよろしいでしょう。
牙: そのときのピストルが
これ‥‥、だね。
裁: 証拠品を受理しましょう。

証拠品<<ピストル>>のデータを
法廷記録にファイルした。
裁: それでは、弁護人。
‥‥<<尋問>>をおねがいします。
王: ‥‥はい。
み: ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
王: ‥‥どうしたんだよ。
証人のカオ、見つめて。
み: あの、証人のおニイさん‥‥
どこかで見たことが
あるような気がするの‥‥
王:‥‥?

(「証言5」に「宇狩輝夫の解剖記録」をつきつける)
王: (ふう‥‥これなら、
オレでも安心だな)
牙: なに、ホッとしてるのかな?
王: あ。いえ‥‥コホン。
異議ありィィッ!
裁: ‥‥それは、もう聞きました!
み: オドロキさん!
落ち着いて行きましょう!
王: あ! いえ、その! これ。
こちらをゴランくださいッ!
裁: 解剖記録‥‥ですか。
弁護人。コレが、何か?
王: えーと、ですね!
‥‥‥‥‥‥‥
あ! そうだ!
モンダイは”キズの位置”です!
裁: キズの位置‥‥?
王: ハンニンは”真っ正面から”
被害者を撃ったと証言しましたね?
河: ははあ‥‥そこをついてきますか。
やはり。
‥‥よろしいでしょう。
カンタンにご説明申し上げます。
たしかに、この世界にはゲンミツな
”真正面”は存在しないでしょう。
たとえば正確な”1メートル”の
定義をご存じでしょうか。いわく、
”クリプトン原子の発する光の波長
の1,650,763,73倍”
さて。そもそもクリプトン原子とは、
視床下部の希少原子であるという
ジジツはよく知られているのですが、
実はこれには意外な落とし穴が存在
裁: ‥‥弁護人。
王:はい。
裁: あなたは、”くりぷとんげんし”と
やらに異議を申し立てたのですか?
牙: スケールの小さな男だなあ、キミは。
がっかりだよ。
王: ちち、ちがいますよ!
もっと大ざっぱなモンダイが
あるじゃないですか!
裁: おおざっぱ‥‥
王: 解剖記録を見てください!
キズの位置は‥‥
”右のコメカミ”と
書かれています!
河: こ。こめかみ‥‥?
王: あなたはアキラカに”真正面から”
撃ったと証言しています!
あの。これ、って‥‥
”ムジュン”ですよね?

(ざわめきが起こる)


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