王泥喜 法介…紺 | |
成歩堂 龍一…黒 | |
成歩堂 みぬき…赤 | |
裁判長…緑 | |
牙琉検事…茶 | |
宝月 茜…桃 | |
北木 滝太…水 | |
北木 小梅…青 | |
北木 常勝…灰 | |
並奈 美波…紫 | |
矢田吹 麦面…黄土 | |
河津 京作…黄緑 | |
引田(偽)…黄 |
地方裁判所 被告人第2控え室 | |
王: |
あれ‥‥ 今日は成歩堂さん、来てないんだ。 |
み: | 足の古傷が痛みだしたから、って。 |
王: |
”ふるきず”‥‥って‥‥ きのうはニコニコしてたけど。 |
み: |
『みぬきがいれば大丈夫だろ』って 笑ってたよ。 |
王: |
だ‥‥大丈夫だ オドロキ ホースケ! 今朝だって、 5時から発声練習をしていたんだし。 |
み: |
へえ! ちょっと、やってみてくださいよ! |
王: |
え。ああ、いいよ。 ‥‥コホン。 オドロキ ホースケは、 大丈夫ですッ! |
み: |
‥‥‥‥‥‥‥‥ 発声練習と言うより、 自己暗示ですね。 |
?: |
‥‥だから! オレは大丈夫だって言ってるだろ! |
王: | あ。おはようございます! |
滝: |
よお、アンタ! オレ、有罪判決なんか、 気にしねえからよ。 今日はラクにやってくれよ! |
王: | は。はあ‥‥ |
常: |
滝太ッ! オマエは また、そんなことをッ! |
滝: |
オレはな。オヤジとちがって、 ケーサツなんか怖くねえのさ! 極道なんてのは。刑務所のメシを 食って、ハクがつくのさ! |
常: |
オマエは なんにもわかっておらんッ! |
み: |
‥‥おふたりとも、 オドロキさんより声が大きいですね。 |
王: |
(まいったな。 ケッキョク‥‥ 依頼人と打ち合わせできないまま、 法廷が始まっちまうよ‥‥) |
地方裁判所 第4法廷 | |
裁: |
これより、 北木 滝太の法廷を開廷します。 |
王: | ‥‥弁護側、準備完了しています。 |
牙: | ‥‥検察側、オーケイだ。 |
み: |
あ! あのひと‥‥きのうのヒト! 検事さん、だったんだ。 |
王: | (あれが‥‥牙琉先生の、弟!) |
牙: | ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: |
牙琉検事‥‥ひさしぶりですな。 しばらく見かけませんでしたが。 |
牙: |
遊びで始めたバンドが 大きくなってしまってね。 ミリオンヒットを3本も飛ばすと、 ファンが離してくれなくて。 |
裁: |
‥‥そうですか。 正直、シンパイしておりましたよ。 あなたもまだ、あの事件に 縛られているのではないかと‥‥ |
牙: |
よけいなお世話さ、裁判長さん。 今日の法廷はね。 プラチナ・チケットの ステージより価値がある。 なにしろ‥‥ ぼくの兄を蹴落としてイキがってる、 ボクちゃんの実力を 見られるんだからね。 |
王: | ‥‥! |
牙: |
‥‥ステージをキャンセルする だけの価値はあるよ。 |
裁: |
わかりました。 それでは、冒頭弁論を おねがいしましょう。 |
牙: |
その前に。‥‥つねづね 思っていたんだけどね。 法廷の、この空気。 ‥‥なんか、重たいんだよなあ。 |
裁: | まあ‥‥法廷ですからね。 |
牙: |
これじゃア、お客さんも ノッて来ないと思うんだ。 |
裁: | いや、だから。法廷ですから! |
牙: |
オーケイ! 今日は、 こんな感じで行ってみようか! |
王: |
(なんだなんだ。 このフンイキは‥‥) |
牙: |
この、リズムのうねりに乗せて、 事件を見ていこうよ。 |
王: | (ムチャクチャだあ‥‥) |
牙: |
‥‥被害者は、宇狩 輝夫。 <<宇狩外科医院>>の院長だ。 現場は<<人情公園>>。 屋台を引いている姿で発見された。 |
裁: |
いったい、どうしてまた お医者さんが屋台なんかを‥‥? |
牙: |
それは‥‥ この法廷で、被告人に 聞けばわかるんじゃないかな。 なにしろ。彼が被害者を撃ったのは、 マチガイないジジツなんだからね! |
王: | どういうイミですか? |
牙: |
‥‥ニラむなら、被告席の チンピラくんをたのむよ。 なんせ‥‥彼は、犯行の瞬間を バッチリ目撃されているんだからね。 |
裁: |
‥‥わかりました。 それでは、その”目撃証人”を 入廷させてください。 |
牙: |
‥‥その前に。 かたづけておきたいコトが あるんだけど‥‥いいかな。 |
王: | (フツーにしゃべれよ!) |
み: |
みぬき、今。一瞬、 ギターが見えました! |
裁: | なんですかな? 牙琉検事。 |
牙: |
”動機”ってヤツだよ。 チンピラくんが、どうして‥‥ 宇狩外科医院の院長さんを やっつける気になったのか? |
王: |
バカなッ! 被告人が、そんなコト 話すワケがないでしょう! |
牙: |
それがね。今朝、被告人 本人からたのまれたのさ。 どうしても、開廷イチバンで みんなに聞いてほしい、ってね。 |
裁: | なんですとォォッ! |
王: | (‥‥カンベンしてくれよ‥‥) |
み: |
ステージは”ツカミ”が カンジンですからね! オッケーじゃないでしょうか! |
裁: |
きわめて異例なことではありますが。 被告人自身から、<<動機>>について ハナシをしていただきましょう! |
裁: |
あなたが、 被告人‥‥北木クン、ですかな。 |
滝: |
”クン”じゃねえだろう! キタキツネ一家にケンカを売ると、 後悔するぜ! |
牙: |
国家権力にケンカを売るヤクザ、か。 ぼくも初めて見るよ。 |
み: | すごいんですね、滝太さんて! |
王: | (やめてくれえ‥‥) |
裁: |
それでは、 とにかく証言していただきましょう。 被告人の”動機”について‥‥ 被告人自身に! |
滝: |
『あの医者はな! インチキ医者だったんだよ!』(証言1) 『ダレかが思い知らせて やらなきゃならなかったんだ!』(証言2) 『半年前、入院したとき、 アイツはオレの手術に失敗した!』(証言3) 『しかも、そのまま ダマって退院させやがった!』(証言4) 『おかげでこっちは、 また手術のやりなおしさ!』(証言5) 『あの日、やっとそれがわかったんだ。 ユルせるワケ、ねえだろ!』(証言6) 『だからオレは、あの夜。 あのヤローのトコへ行ったのさ!』(証言7) |
裁: |
なんと‥‥あなたは、被害者の 病院の患者だったのですか‥‥ |
滝: |
ま。いろいろあるからな、 オレたちの世界にゃ。 しかし! あの医者はなんだ! 仁義のカケラもありゃしねえ! |
裁: |
ふむう‥‥それでは、弁護人。 尋問を。 |
王: |
(やれやれ‥‥ 初めて聞くことばっかりだぞ) |
王: |
半年前、宇狩医院に入院した‥‥ 入院の理由は何だったのですか? |
滝: |
まあ‥‥ ”名誉の負傷”ってやつだな。 |
牙: |
キミの身に何があったか、 説明してくれるかな。 |
滝: |
あれは、華汰義(かたぎ)組との 抗争のときだった。 そのとき、オレ。 ドジっちまってさァ‥‥ 待ち伏せしてたヤツに 撃たれちまったんだ‥‥ |
牙: |
手元の資料によると‥‥ ”キンチョウに耐え切れず、 予定時刻の15分前に ヒトリで乗り込んだ”とあるね。 |
滝: |
あ、あんなヤツら、 オレ1人で十分だったんだよ! |
裁: |
そして、担ぎ込まれたのが、 宇狩医院だったワケですかな。 |
牙: |
撃たれたのは <<心臓>>だったみたいだね。 |
王: |
(心臓を撃たれて、 よく生きてたな‥‥) |
み: |
みぬきも、歯で銃弾を 受け止めることはできますけど‥‥ さすがに、心臓はマズイです! |
滝: |
弾丸は、心臓ギリギリで 止まってたらしい。 オレはなんとかふんばったのに、 あの宇狩の野郎! 弾丸のひとつ、まともに 取り出すことができなかったんだ! |
牙: |
‥‥要するに、手術は 大失敗だったってコトだね。 |
滝: |
‥‥ところが、 それだけじゃねえんだよ! |
王: |
ダマって退院させた‥‥ どういうコトですか? |
滝: |
そのまんまのイミさ! 驚くだろ? |
裁: |
そんなコトがあり得るのですか? さすがに、マズイのでは‥‥? |
牙: |
宇狩医院長は、手術の失敗を 隠したかったみたいだね。 そのためには、 彼を退院させるしかなかった‥‥。 |
滝: |
あの大ウソつきめ! タチが悪い極道よりタチが悪いぜ! |
王: |
それじゃあ‥‥ その弾丸は、いまも? |
滝: |
そうなんだよ! あのクソったれの弾丸は‥‥ 今でも胸の中にあって、 心臓を圧迫し続けているんだ! |
牙: |
”キミの言葉は、ぼくのムネに 突き刺さったキエナイ銃弾”‥‥ ‥‥ってワケだ。 これ、ぼくのバンドの歌詞だけど。 |
裁: |
そ、それは! いわゆる ”医療事故”ではないですか! |
滝: |
事故なんかじゃ片付けられねえ! カンゼンに犯罪だぜ! |
裁: |
ふむう‥‥それはたしかに、 宇狩医師にもモンダイがありますな。 |
滝: |
だろ? 死んで当然なんだ、 あんなイシャは! |
王: |
あの。そういうコトを言うときは 弁護士のオレを通してください! |
み: |
オドロキさん! コシが引けてます! |
裁: |
しかし‥‥なぜ、その”ミス”が 今になって判明したのですか? |
牙: |
”組”の健康診断で わかったそうだね。 |
王: | け。けんこうしんだん‥‥? |
滝: |
笑っちまうぜ! 極道がガン首 そろえて健康診断なんてよォ! オレ、死ぬジュンビなら いつでもできてるってのにさァ! |
牙: | ‥‥それを聞いて、安心したよ。 |
滝: | え。‥‥な。なんだよ! |
牙: |
あれ。オヤジさんから 聞いていないのかい? キミの手術ミス‥‥ 早急に手を打たないと、 イノチに関わる可能性も あるそうだよ。 |
王: | な‥‥なんですって! |
牙: |
キミが抱えこんでいる”爆弾”の 資料は、宇狩 輝夫が持っていた。 文字どおり、キミにとっての ”イノチ綱”だったのさ。 |
滝: | そ。そんな! ウソだろ‥‥ |
牙: |
こいつが、証拠だよ。 キミの診断書だ。 |
データを法廷記録にファイルした。 | |
牙: |
‥‥自分を助けられる、唯一の オトコを殺害しちゃうなんてね。 キミもずいぶん、 おっちょこちょいだなあ。 ‥‥あっはっはっはっ。 |
滝: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
王: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
牙: |
‥‥さて。いい感じで空気が あたたまってきたところで。 そろそろ、始めようか。 ‥‥アツい<<ギグ>>をね! |
裁: | は、”はじめる”‥‥? |
牙: |
前座はじゅうぶんさ。 ”目撃者”のハナシを聞こうよ! |
み: |
‥‥なんか、滝太さん。 ダマっちゃいましたね。 |
王: |
オレも正直、少し動揺してるよ。 (これが‥‥ 牙琉検事の作戦なのか?) |
牙: |
‥‥きみ。 名前と職業をおねがいするよ。 |
河: |
河津 京作(かわづきょうさく) と申します。 ”職業”とは本来、社会に労働力を 提供して”利益”を手にするという いわば”生存”を目的とした、活動 を指すのですが、そういうイミでは ワタクシはある種、”無職”と呼ぶ べき状況の下に置かれている事実を 認めるのにやぶさかではないつもり ですが、その一方で”職業”という 言葉には通例として<<現在の身分>> というイミが、そこに付与され得る という事実もまた、往々にして存在 するワケなのですが、つまりこれは 日本語の持つ構造的な<<アイマイ>> さがもたらす問題であり、ひいては 世界における、<<日本>>の閉鎖的な イメージと文化論にも与するもので |
牙: |
‥‥つまり、カレが言いたいのは。 『自分は学生である』ってコトさ。 ‥‥勇盟大学・3年生。 マチガイないよね? |
河: |
河津 京作‥‥ 理工学部に、籍をおいております。 この世のすべてに好奇心を持ち、 真理の探究にココロを砕く毎日‥‥ |
牙: |
とりあえず、その好奇心を、 今は事件に向けてくれるかな。 |
裁: |
それでは、証人。 あなたが事件当夜、見たことを 証言していただきましょう。 |
河: |
<<見たこと>>‥‥と、あなたは カンタンにおっしゃるが、そもそも ヒトの眼球というものは2ヶ、存在 するものであり、おのおのそれぞれ 受け止めた情報を分析・分類された のちに、脳内 |
河: |
『その夜。ワタクシは買い物の帰りに その公園を通りかかった。その時!』(証言1) 『屋台を引いた男が目に入ったのです。 そして、向き合う、もうヒトリの男。』(証言2) 『ハッキリ見えましたよ。男は、 まちがいなく被告席のヒトでしたね。』(証言3) 『男は、手に持った‥‥そう。 ピストルを屋台の男に向けたのです。』(証言4) 『そして、1発の銃声が。真正面から、 屋台の男のおでこを撃ち抜いたッ!』(証言5) |
裁: |
ふむう‥‥そのとき、 公園に、他にヒトは‥‥? |
河: |
‥‥ある種”いなかった” そう申し上げてよろしいでしょう。 |
牙: |
そのときのピストルが これ‥‥、だね。 |
裁: | 証拠品を受理しましょう。 |
法廷記録にファイルした。 | |
裁: |
それでは、弁護人。 ‥‥<<尋問>>をおねがいします。 |
王: | ‥‥はい。 |
み: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
王: |
‥‥どうしたんだよ。 証人のカオ、見つめて。 |
み: |
あの、証人のおニイさん‥‥ どこかで見たことが あるような気がするの‥‥ |
王: | ‥‥? |
王: |
(ふう‥‥これなら、 オレでも安心だな) |
牙: | なに、ホッとしてるのかな? |
王: |
あ。いえ‥‥コホン。 異議ありィィッ! |
裁: | ‥‥それは、もう聞きました! |
み: |
オドロキさん! 落ち着いて行きましょう! |
王: |
あ! いえ、その! これ。 こちらをゴランくださいッ! |
裁: |
解剖記録‥‥ですか。 弁護人。コレが、何か? |
王: |
えーと、ですね! ‥‥‥‥‥‥‥ あ! そうだ! モンダイは”キズの位置”です! |
裁: | キズの位置‥‥? |
王: |
ハンニンは”真っ正面から” 被害者を撃ったと証言しましたね? |
河: |
ははあ‥‥そこをついてきますか。 やはり。 ‥‥よろしいでしょう。 カンタンにご説明申し上げます。 たしかに、この世界にはゲンミツな ”真正面”は存在しないでしょう。 たとえば正確な”1メートル”の 定義をご存じでしょうか。いわく、 ”クリプトン原子の発する光の波長 の1,650,763,73倍” さて。そもそもクリプトン原子とは、 視床下部の希少原子であるという ジジツはよく知られているのですが、 実はこれには意外な落とし穴が存在 |
裁: | ‥‥弁護人。 |
王: | はい。 |
裁: |
あなたは、”くりぷとんげんし”と やらに異議を申し立てたのですか? |
牙: |
スケールの小さな男だなあ、キミは。 がっかりだよ。 |
王: |
ちち、ちがいますよ! もっと大ざっぱなモンダイが あるじゃないですか! |
裁: | おおざっぱ‥‥ |
王: |
解剖記録を見てください! キズの位置は‥‥ ”右のコメカミ”と 書かれています! |
河: | こ。こめかみ‥‥? |
王: |
あなたはアキラカに”真正面から” 撃ったと証言しています! あの。これ、って‥‥ ”ムジュン”ですよね? |