王泥喜 法介…紺 | |
成歩堂 龍一…黒 | |
成歩堂 みぬき…赤 | |
裁判長…緑 | |
牙琉検事…茶 | |
宝月 茜…桃 | |
絵瀬 まこと…黄緑 | |
絵瀬 土武六…灰 | |
或真敷 バラン…薄橙 | |
葉見垣 正太郎…橙 | |
或真敷 ザック…青 | |
糸鋸 圭介…黄土 | |
原灰…黄 | |
ラミロア…藤 | |
牙琉 霧人…紫 |
地方裁判所 被告人第2控え室 | |
ザ: |
さすがだな、成歩堂くん。 期待したとおりの働きだよ。 |
成: |
‥‥今さら言っても 始まりませんけど‥‥ もう少し詳しく、事情を 話してほしかったです。 |
ザ: |
話しても、信じてもらえそうに なかったのでね。 それなら、自分で探してもらった ほうがいいだろうと思ったのさ。 思いやり、というヤツだな。 |
成: |
‥‥そういうのは、いいですから。 とにかく、話してください! 事件当夜‥‥ ホントは何があったのか? |
ザ: |
まあ。そんなに コワいカオをしないことだ。 ‥‥みぬきが泣き出す。 |
成: |
(そういえば‥‥ あの子の姿が見えないな) |
ザ: |
キミも見ただろう。 モンダイは、手紙さ。 |
成: |
ああ‥‥<<ヒタイを撃て>> という、ムチャな‥‥ |
ザ: |
そう。たしかに‥‥ ”理由”はあった。 師匠の命令がなんであれ、 死んでも逆らうことはできない‥‥ |
成: | それは、いったい‥‥? |
ザ: |
死んでも言うつもりはないな。 ‥‥今のところは。 |
成: |
(なんだよ、 ”今のところは”って) |
ザ: |
かなりムチャをやって 生きてきたが。これだけは‥‥ ワレワレが、死ぬまで背負って 行かねばならない、十字架なのだ。 |
成: | ‥‥”ワレワレ”‥‥? |
ザ: |
そんなコトより、 事件の日のコトだったな。 |
成: |
(やれやれ‥‥マイペースな オヤジさんだな) |
ザ: |
モチロン、師匠のヒタイを撃つ つもりなど、なかったが‥‥ あの夜、指定された時間。 私は病室へ忍びこんだ。 テーブルの上には‥‥ 2挺の拳銃があった。 |
成: | ‥‥”2挺”ですか? |
ザ: |
そうだ。かつて、 私が使っていたものと‥‥ 私の相棒・バランが使っていた ピストルが‥‥な。 |
成: |
<<ザックとバランの早撃ち>> ‥‥のピストルですか。 |
ザ: |
師匠は‥‥眠っているように 見えたよ。 ベッドのそばに立っても、 安らかな寝息が聞こえるだけだった。 ‥‥私は、ピストルを手に取った。 そのとき‥‥一瞬、 迷ったことは否定できないな。 |
成: |
”迷った”‥‥ 撃とうとしたんですか? |
ザ: |
<<ゼッタイ逆らえない理由>>が 私にはあったのだ。 あの”要求”が最後になったが‥‥ あれが最初だったワケではない。 |
成: | じゃあ、それまでも‥‥ |
ザ: |
正直‥‥生活は荒れていたな。 みぬきにも苦労をかけたよ。 |
成: |
(師匠が、弟子を ”脅迫”していた‥‥ いったい、何があったって いうんだ‥‥?) |
ザ: |
まあ‥‥ケッキョク、 私には撃てなかった。 だから、そのかわりに。 ピエロに撃ちこんでやったよ! ‥‥私が撃ったピストルは、 そのままポケットにしまったな。 |
成: | ポケットに‥‥? |
ザ: |
だから、そのピエロに メリこんだ弾丸を調べれば‥‥ 師匠のアタマからクリ抜いた 弾丸とは、ちがうハズさ。 その‥‥なんだっけ? |
成: | ‥‥”線条痕”です。 |
ザ: |
まあ、そんなトコロかな。 ‥‥事件に関しては。 |
成: |
”事件に関しては”‥‥ ということは。 それ以外に、何かあったんですね? |
ザ: |
ふ‥‥はっはっはっ。 おもしろいオトコだな、キミは。 |
成: | ‥‥はあ‥‥ |
ザ: |
たしかに、な。”何か”あったよ。 師匠が、目を開いた。 |
成: | ‥‥! 或真敷 天斎が‥‥ |
ザ: |
やっこさん、 眠っちゃいなかったのさ。 ‥‥まあ、寝ていたとしても、 銃声で目がさめるけどな。 そこで‥‥師匠と弟子の、 最後の会話が交わされたのさ。 短かったな‥‥ 5分ぐらいだったか。 |
成: | いったい、どんなハナシを‥‥? |
ザ: |
はっはっ。いいかい。 ‥‥さっきも言っただろう? 事件にはカンケイないコトさ。 |
成: |
(‥‥やれやれ。決意を曲げる ヒトには見えないよな‥‥) |
係: |
弁護人! そろそろ、 法廷のほうへおねがいします! |
ザ: |
それじゃあ、たのむよ。 ‥‥この調子で、ね。 |
成: | ‥‥はい。わかりました。 |
地方裁判所 第7法廷 | |
裁: | それでは、審理を再開します。 |
牙: |
休廷時間中、ピエロの頭部から 弾丸がホジくり出されたよ。 |
裁: |
な‥‥なんと! それで、線条痕は‥‥? |
牙: |
詳しい調査をする 時間がなかったものでね。 『凶器と同じ形式のピストル』 ‥‥としか言えないそうだよ。 |
裁: |
ふむう‥‥それでは、 まだ、ケツロンは出せませんね。 |
牙: |
だから、呼ぶんじゃないか。 決定的な証人を、さ。 |
成: |
”決定的な証人”‥‥か。 何度も聞いたフレーズですね。 ”検察側にとって”決定的かどうか、 ギモンが残るコトが多いですけど。 |
牙: |
‥‥今度はハッキリさせてやるさ。 <<或真敷一座>>の花形スター、 ”ザックとバラン”‥‥ その”相棒”に 登場していただこうか! |
成: |
(或真敷 バラン‥‥ 被害者・或真敷 天斎の ”もうひとりの弟子”‥‥か!) |
牙: |
それでは。名前と職業を おねがいしようかな。 |
バ: | 或真敷 バラン‥‥魔術師。 |
裁: |
あの。あなたが‥‥ ”決定的な証人”になるのですか? 兄弟子にあたる被告人の ”有罪”を立証する‥‥ |
バ: |
”運命”とは。タネとシカケに 満ちみちた、大魔術なのですよ。 |
成: |
で、でも! 事件が起こった のは、午後11時すぎです。 その時間、あなたも‥‥ 病院にいた、ということですか? |
バ: |
ロンリ的に考えるならば‥‥ そういうコトになりますかなッ! |
成: |
はあ‥‥‥ (ニガテな人種だよな) |
牙: |
おもしろいジジツがある。 この証人のもとに、事件の数日前。 ‥‥こんなものが届いたのさ。 |
裁: |
それは‥‥その。 ごく最近、見たような気がします。 |
成: |
そ。そいつは‥‥ 被告人・或真敷 ザック氏と マッタク同じ手紙じゃないですか! |
バ: | ‥‥まさに、あるまじきッ! |
裁: |
静粛に! 静粛に! 静粛にッ! ま、まさか‥‥その中身は‥‥ |
牙: |
自分の目でたしかめて みるといいと思うよ。 |
裁: |
ほ。ほとんど、同じ文面です。 或真敷 ザック氏の手紙と‥‥ 証拠品として、受理します。 |
法廷記録にファイルした。 | |
裁: |
それにしても‥‥いったい、 あなたがた<<或真敷一座>>は‥‥ どういうカンケイ だったのですかな? |
バ: | ‥‥と、申されますと? |
裁: |
師匠が弟子に、自らの命を 絶つよう、命令をするとは‥‥ しかも、2人いっしょに。 |
牙: |
この文面からすると‥‥ <<命令>>というより、<<脅迫>>に 近かったように見えるけどね。 |
バ: |
‥‥ワレワレは、ともに芸を極める 道を歩み、ともに生活をしていた。 そこに、ある種の<<ゆがみ>>が 生まれるのも仕方のないこと。 ‥‥それは、この事件とは カンケイないでしょう。 |
成: |
(この証人も、語るつもりは ないみたいだな。 手紙に書かれていた <<決して断れない理由>>‥‥) |
裁: |
‥‥とにかく、証言を おねがいしましょう。 被告人‥‥或真敷 ザックを 告発する、その詳細について。 |
バ: |
‥‥或真敷 バランの行くところ。 世紀の奇跡の大魔術の大輪のバラの 花のユメの香りの立ちのぼるのッ! |
成: |
あの‥‥ わかってると思いますけど。 犯行の状況‥‥あなたにも、 ピッタリ当てはまるんですよ? <<手紙>><<凶器>> そして。現場には‥‥ 2つの<<弾痕>>が あったワケですからね。 |
裁: |
ただひとつ、ちがうのは‥‥ 指定された<<時間>>だけですな。 |
バ: |
はっはっはっはっはっ‥‥ その<<時間>>こそが重要なのですよ。 |
牙: |
それじゃ‥‥そろそろ、始めようか。 とびきり熱いステージを、ね! |
バ: |
『あの晩、私は師匠が指定した時間に 病室を訪ねました。』(証言1) 『部屋はすでに火薬のニオイがして、 天斎はすでに天に召されていました。』(証言2) 『まさか、兄弟子にも同じ指示が あったとは想像もつかなかった‥‥』(証言3) 『死者とのヤクソクを果たすため、 ピエロの脳天に死の刻印を。』(証言4) 『そして、医者と警察に 連絡をしたのです。』(証言5) |
裁: |
ふむう‥‥事件を通報したのは あなただったのですか‥‥ |
バ: |
さよう。 このジジツからも‥‥ 私が撃ったのではないのは アキラカだと思いますがね。 |
成: | そういうワケにはいきませんよ‥‥ |
裁: |
とにかく 尋問をおねがいします。 もし、この証言が真実ならば‥‥ 被告人・或真敷 ザックの 犯行が立証されることになります。 |
成: |
(逆に、ザックさんではないと すれば‥‥犯人は、このオトコ。 ‥‥或真敷 バラン、 ということになるワケか‥‥) |
成: |
被害者のヒタイと、ピエロのヒタイ ‥‥現場に残された弾痕は、ふたつ。 ”ピエロのほう”があなただと 主張するワケですね? |
バ: |
おそらく。我が兄弟子・ザックも 同じ主張をするでしょうが。 |
成: |
(やはり、 ここがポイントだな‥‥ もっと、ハッキリさせて おいたほうがいいか) バランさん。‥‥もう少し、 詳しいお話を聞かせてください! |
成: |
あなたが病室に入ったとき‥‥ ピストルは、いくつありましたか? |
バ: | ‥‥どういうコト、でしょうかな? |
成: |
<<ザックとバランの早撃ちショー>> つまり、その芸では‥‥ おふたりで1挺ずつ、 ピストルを使ったワケですね? |
バ: |
よく、ご存じだ。‥‥しかし。 あの晩、病室に置かれたナツカシイ ”相棒”は、1挺だけでしたな。 |
成: |
(休憩室で聞いた、 ザックさんの話では‥‥) |
ザ: |
『モチロン、師匠のヒタイを撃つ つもりなど、なかったが‥‥ あの夜、指定された時間。 私は病室へ忍びこんだ。 テーブルの上には‥‥ 2挺の拳銃があった。 ‥‥私が撃ったピストルは、 そのままポケットにしまったな。』 |
裁: |
ふむう‥‥特に、 モンダイはないようですね。 現場写真にも、ピストルは 1挺しか写っていません。 |
成: |
‥‥‥‥‥‥‥‥ あなたは、その1挺のピストルを 手にとって、撃ったんですね? |
バ: |
‥‥あるまじかる・みすてりぃ。 そのとおりです。 |
裁: |
ふむう‥‥ ピストルの”数”。 それが、重要なのですか? |
成: |
ピストルの”数”。 ‥‥きわめて重要だと考えます。 |
裁: |
‥‥いいでしょう。 では、証人。 今のジジツを、証言に 加えていただきましょうか。 |
バ: |
‥‥あるまじかるべく。 『病室にあった拳銃は、ただ1挺。 それで、ピエロを撃ちぬきました。』(証言6) |
成: |
被告人・或真敷 ザック氏に よると‥‥彼が病室に入ったとき。 テーブルの上に、”2挺”。 ピストルがあったそうです。 |
裁: | にちょう‥‥ |
成: |
彼は、一方のピストルを取って、 ピエロのヒタイを撃った。 そして、そのピストルを 現場から持ち去ったそうです。 |
牙: |
まあ、そう主張するだろうね。 ヒタイの奥にノーミソが入っている 人間なら、だれしも‥‥ね。 |
成: |
‥‥ところで。ただ今の バラン氏の証言には‥‥ どうしても、スジのとおらない 部分があるのです。 |
バ: |
‥‥どういうことですかな? 私は、現場にあったピストルを 手に取り、ピエロを‥‥ |
成: | そうはならないのですよ。 |
バ: | ‥‥‥? |
成: |
‥‥カンタンなコトです。 <<線条痕>>が、それを物語っている。 先ほどの、牙琉検事の発言を 思い出してください! |
牙: |
『被害者の頭部から発見された弾丸と、 このピストルの弾丸‥‥ 2つの弾丸の線条痕は、 ピッタリ一致しているのさ。』 |
バ: | あ‥‥‥ |
成: |
つまり! このピストルを 撃ったということは‥‥ すなわち、被害者のヒタイを 撃ったことになるのです! |
裁: |
静粛に! 静粛に! 静粛にィッ! こ。これは、いったい‥‥ いきなり、トンでもないことに‥‥ |
牙: |
くっくっくっくっくっ‥‥ まいったな。ぼくとしたことが。 |
裁: | が。牙琉検事‥‥? |
牙: |
ショクンには、おワビしなきゃ ならないみたいだ。 ‥‥すまなかったね。 |
成: | な。なんですか‥‥? |
牙: |
トクベツに作られたピストルが 2挺あるとは聞いてなかったからね。 線条痕の検査は、”発砲した拳銃の 機種”の特定のみ、行ったのさ。 |
成: |
しかし、きみは断言したハズだ! <<凶器は、このピストルだと 特定された>>‥‥と! |
牙: |
だから、こうして スナオにあやまってるじゃないか。 ‥‥考えてみれば。 ”若さ”って罪なヤツ、だよね。 |
成: |
そんなの、あやまって 済むミスではないッ! |
牙: |
‥‥そもそも。 <<現場からピストルを 1挺、持ち去った>> 被告人が最初から、スナオに 供述してくれていれば‥‥ こんな初歩的なミスも なかったハズなのにねえ‥‥ |
成: | ‥‥‥! |
裁: |
ふむう‥‥ 或真敷 バランさん。 |
バ: | ‥‥なんでしょうかな。 |
裁: |
あなたは”決定的な証人”と 聞いていたのですが‥‥ 思ったほどでは ありませんでしたな。 |
牙: | ‥‥あわててもらっては困るなあ。 |
成: | ‥‥‥! |
牙: |
今の証言は、いわば ”事実関係のカクニン”さ。 それを”立証”するのは、 次の証言だよ。 |
裁: | どういうことですかな? |
牙: |
彼が病室に入ったとき、 すでに被害者は”撃たれていた”。 次の証言で、そいつを アキラカにしようじゃないか! |
成: |
(なるほど‥‥ 次が”勝負”ってワケか) |
裁: |
わかりました。 それでは、証言をおねがいします。 <<発砲者の特定>>について! |
バ: |
『私が病室を訪れたのは、指定どおり 午後11時20分でした。』(証言1) 『死体を発見した私は、ヤクソクを 果たした後‥‥医者を呼んだ。』(証言2) 『医者は、警察が来る前に、 死体の状況を調べたのですが‥‥』(証言3) 『ハッキリ、断定したのです。死亡 時刻は、11時10分である、と。』(証言4) 『その時間、病室には兄弟子が いたのです。私ではなく、ね。』(証言5) |
裁: |
ふむう‥‥かなり細かい ”時間割り”ですな‥‥ しかし、”分”単位のアリバイの 主張に意味があるか、ギモンです。 10分ていどの”誤差”など、 どうとでも言い逃れが‥‥ |
牙: |
できないのさ。この場合。 そう‥‥たとえば。 ぼくたちのデビュー曲 <<恋の禁固刑・13年>>だけど。 あの曲は、プレイボタンを押したら かならず、2分15秒で終わる。 何百回やっても、結果は変わらない。 ‥‥そういうコトなんだよ。 |
成: | (ヤケに短い曲だな‥‥) |
牙: |
この尋問では、関係者の ”分”単位の行動が焦点になる。 医者がハジき出した死亡時刻には、 動かせない”コンキョ”があるのさ。 |
裁: |
‥‥了解しました。 モンダイが精密である以上‥‥ 尋問も、かなり細かい部分が ポイントになることが予想されます。 |
牙: |
大ざっぱな”ゆさぶり”を使った 手探りは、やめてもらいたいね。 ‥‥証言がブレてしまうからね。 |
裁: |
‥‥いいでしょう。 コンキョのない発言には、 ペナルティを与えるコトとします。 そのつもりで、おねがいします! |
成: | (そう来たか‥‥) |
成: |
まあ‥‥ダレもがギモンに 感じると思いますけど。 その医者はなぜ、そこまでハッキリ 時間を”断定”できたのですか? |
裁: |
たしかに。”死亡推定時刻”と いうのが、一般的でしょう。 ”死亡断定時刻”というのは、 聞いたことがありません。 |
バ: |
‥‥そのような、ムズカシイ 話ではないので、安心をば。 ある種、これは‥‥ タンジュンな”ひき算”なのです。 |
裁: |
きわめて高度にしてシンプル、 数学的な”ひき算”ですか。 |
牙: |
ポイントは‥‥被害者が 受けていた”点滴”さ。 現場写真にも写っているだろう? さっき、少しハナシが出たよね? 被害者の或真敷 天斎は‥‥ 毎晩11時から30分間、点滴を 受けることになっていたのさ。 |
裁: |
たしかに‥‥点滴のセットが 写っていますな。 |
牙: |
もう少し、よく見てもらえるかな。 その点滴のチューブの”先”を。 |
裁: |
‥‥あッ! 点滴のハリが‥‥ ハズれている‥‥ |
牙: |
当然。発砲の瞬間にハズれた もの、と考えるべきだろうね。 |
裁: | たしかに、そうでしょうな。 |
牙: |
‥‥そして。ハリが外れたら、 点滴液の流れは、そこで止まる。 |
成: |
あ! じゃ、じゃあ、つまり! 点滴液の、残量を調べれば‥‥ |
牙: |
‥‥そのとおり。 点滴液は、いわば ”砂時計”のようなものさ。 医者は、そこに注目して 調べてくれた、ってワケ。 <<薬液の残量から、 点滴の開始後>>‥‥ <<約10分が経過した 状態である>> |
法廷記録にファイルした。 | |
バ: |
‥‥さよう。このバランが 病室を訪れたとき‥‥ すでに、犯行の10分後だった! これ以上の立証‥‥あるまじき。 |
裁: |
ふむう‥‥ いかがですかな? 弁護人。 |
成: | (この証言‥‥どうなんだろう?) |
成: |
死亡時刻を特定する”最大の 手がかり”なワケですから‥‥ そのイミは、あまりに 重要だと考えます。 |
裁: |
ふむう‥‥たしかに、そうですな。 最新の技術をもってしても‥‥ ここまでハッキリと時刻を 特定することはムズカシイでしょう。 それでは、証人。 ただ今の発言を、 証言に加えてください。 |
バ: |
‥‥あるまじりなき真実を。 『残されたイノチの液体‥‥点滴の 量がバランの無実を立証している!』(証言6) |
成: |
あなた自身は、気づいたのですか? 被害者の”点滴”には。 |
バ: |
部屋に入って、まず、 火薬のニオイがハナにつきました。 次に、ヒタイに刻まれた ”死の刻印”が目につきました。 そして、ベッドの下に たれ下がった左手‥‥ ‥‥点滴のハリが、そっと うなだれているのに気がつきました。 |
牙: |
‥‥発砲のショックで外れた。 ラッキーなヒトだね。 その点滴がなかったら、あるいは 疑われる立場だったかもしれない。 |
バ: |
‥‥そのとおり。 なんというか‥‥ ”ラッキーカラー”なのですな。 |
成: |
らっきーからー‥‥ ”幸運を呼ぶ色”ですか? |
バ: |
さよう。このとおり、私自身の 衣装にもしているのです。 この色は、いつも私に ”幸運”を運んでくれる‥‥ <<ザックとバラン>>が、初めて グランプリを受賞したときも! この衣装でした‥‥そう! 国際マジック協会のコンテストで! トロフィーに、胸像。 ‥‥スバラシイ1日でしたな。 |
成: |
(マズいな。思い出に 浸りだしたぞ‥‥) |
バ: |
まさに、ラッキーカラー! あの点滴液も、またしかり。 このバランに、幸運を もたらす色だったワケですな! |
裁: |
ふむう‥‥たしかに、 そういうコトになりますかな。 ‥‥いかがですかな? 弁護人。 証人の、今の発言については。 |
成: |
(‥‥バランさん。すっかり イイ気になってるみたいだ。 ‥‥どうだった? 今の、 ”ラッキーカラー”の証言‥‥) |