■私がもし大金持だったとしたら,疑いもなく私はこのコンサートのすべてのチケットをチャオのために買い占めていたに違いない.しかし,私が実際に買い求めたチケットは自分の分を含めても7席分に過ぎなかった.私は自分のプランに比べ,余りにも貧弱な自分の経済力を恥じた.(もちろん,公演の期日は近かったからたとえ資金に余裕があったとしても,それ以上連続した席を得ることは難しかったかもしれないのだが)
■私はチケットの束から自分の分を取り分けると,残りをチャオの立ち回り先としてもっとも重視すべき店に一枚づつ預けるという作戦を敢行した.チャオは私がチケットを預けたすべての店ですでに知られていたか,ないし確認することができたので,この作戦を実施する上では特になんの障害もなかった.チャオの顔を見かけさえすれば,彼らが頼まれたものを彼女に渡してくれるだろうことはまず間違いのないところだった.あと,公演までに何日が残っていただろう?
その数日の間,チャオがこれらの店の中のどの1つにも現われないということは,ほとんどありそうもないことのように思われた.
■ピーターパンではメグに頼んで,チケットと一緒に例の「蒼いガラス」の載った同人誌も預かってもらった.チャオはメグと親しかったから,彼女から聞き出せばチャオに関する何らかの情報を得られる可能性はあったのだが,私は説明なしに同人誌とチケットだけを彼女に言付けた.私の置かれている状況はすでに一言で説明できるようなものではなくなっていたし,かえってそのような情報交換自体が,かく乱要因になってしまうことをおそれる気持ちがあった.
■この作戦は万全だ,と私は考えた.チャオは多分複数の店でチケットを受け取ることになるだろう.それは,彼女に私の熱意を伝えるものとなるだろうし,彼女は音楽が好きだったから,コンサートに出かけないための理由を見付けることはとても難しいに違いない.つまり,私たちが大ホールの連番の席にもう一度肩を寄せて座ることができるということは,ほぼ間違いのない約束された事柄であるように思われた.「ヒャッホウ」私は指を鳴らして一回転した.
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