第十七話


血煙のゼールビスを倒した俺だか、その事をソフィアに告げなかった。

それは、ソフィアに、自分のした過ちに心配されたくなかったからである。

 

それから数週間後。

俺はいつものようにソフィアのお見舞いへと向かった。

女性「……………」

ゲイル「?」

看護婦「メネシス先生、どうもありがとうございました」

看護婦が先生と呼んだ女性は、そのまま去って行った。

看護婦「ロベリンゲさんのお見舞いに来たんですか?」

ゲイル「はい」

看護婦「それでは、私は他に仕事がありますので」

そう言って看護婦が立ち去るのを見届けた後、俺はソフィアの病室を訪ねた。

ゲイル「ソフィア、お見舞いに来たよ」

ソフィア「来てくれたんですね………」

ゲイル「ソフィア、今…いま声が………?」

ソフィア「あの…、お蔭様で声が出るようになったんです」

俺は、ソフィアの声が戻っていることに驚いた。しかし、

ソフィア「…ただ、普通の会話が出来ても、大きな声とかはダメなんです…。声が…割れてしまって………」

ゲイル「え?」

ソフィアから話を聞くと、声が出なくなったのは精神的な問題だけではなく、

あの時の爆発煙によって声帯を痛めてしまったことも原因だという。

ソフィア「もう歌えないんです…。それが…私…悔しくって………」

ソフィアの目から大粒の涙が溢れ出る。

ゲイル「大丈夫。いくら大きな声が出なくても舞台には立てるよ。な?」

俺は、何とかソフィアを慰めた。

ソフィア「ゲイルさん……。…そうですよね。命があっただけでも喜ばなきゃ、亡くなった方たちに悪いですよね」

ゲイル「そうだ。ソフィア、これから海辺へ行かないか?」

ソフィア「今からですか?…看護婦さんに見つかったら……。

     でも、いいかもしれませんね。…私…身体の方は何ともないんですから………」

ゲイル「さあ、ソフィア」

ソフィア「じゃ、連れてって下さい」

そう言って、俺はソフィアを連れて病院を出た。

ソフィア「フフ…見つかりませんでしたね」

ゲイル「そうだね」

 

そして海へ向かったのはいいが、気付くと辺りは夕闇に包まれていた。

ソフィア「ごめんなさい…。私が休み休み歩いたから………」

ゲイル「ソフィアが謝る事はないよ」

その時、どこからかどこからか歌が聞こえてきた。その歌は、あまりにも奇麗な歌声だった。

ソフィア「あっ………何か聞こえません?」

ゲイル「うん、何か聞こえる。海岸の方からだ」

歌っているのは少女だった。

ソフィア「この歌…行ってみましょう」

俺たちは急いで海岸へ向かった。

ソフィア「…この歌、小さい頃、ダナンで聞いた………!?」

浜辺の少女は、俺たちに気付くと側に近寄ってきた。

ゲイル「ア、アン!?」

アン「あ、あの…あの…こ、こんばんはゲイルさん」

ゲイル「ああ、こんばんは」

ソフィア「ゲイルさん、お知り合い…ですか?」

アン「は、はい…。は、初めまして……あの…そのわたし…アンと言います」

ソフィア「私、ソフィア=ロベリンゲです。…あの、一度どこかでお会いしていませんか?」

アン「ご、ごめんなさい…。わたし、人の顔を覚えるのが苦手なもので……」

俺には一体どうなっているのか分からなくなっていた。

アン「あ、あの…」

ゲイル「ん?」

アン「その…何て言うか……。お二人は…恋人か何かで…?」

ゲイル「いや、ソフィアとは友人さ。しかし、俺は彼女が好きになっている」

ソフィア「えっ…?」

アン「…そ、そうなんですか…。ご、ごめんなさい……。お邪魔しちゃって………」

ソフィア「……………」

すると、アンの目から涙が出てきた。

アン「わ、わたし……。何、泣いているんだろう……。変ですよね…バカみたい……」

ソフィア「アンさん…、好きなんですね、彼の事……」

アン「……………」

ソフィア「私…貴方の事、思い出しました。

     小さい頃…ダナンの街で、迷子になった時…。泣きじゃくる私の私の頭を撫でて…

     元気が出るようにって歌ってくれた女の人……」

アン「…あ、あの時の迷子の?」

ソフィア「歌う事を教えてくれた貴方…。あの時と、少しも変わっていませんね…」

アン「…そう、私は変わらない。…でも、貴方は大きくなっていたんですね……」

ソフィア「ゲイルさん…。彼女、本当に貴方の事が好きみたいですよ…」

ゲイル「え?」

アン「ソ、ソフィアさん!」

ソフィア「アンさん、ありがとう…。私、貴方の歌声を聞いたら、歌う勇気が湧いてきました」

アン「…ソフィアさん。もしかして、私に…」

ソフィア「いいえ…。私、ジョアンって言う婚約者がいるんです…。だから…」

アン「そんな……」

ソフィア「ゲイルさん。彼女の気持ち…受け止めてあげて下さい…」

ゲイル「ソ、ソフィア!?」

ソフィア「…さようなら」

ゲイル「ソフィア!」

ソフィアは、慌ててきびすを返すと逃げるように走り去っていった。

アン「ゲイルさん…気づいています?」

ゲイル「ああ」

アン「彼女…貴方の事が…。なのに…わたしなんかの為に……」

ゲイル「ああ、わかっているよ……」

アン「…わたし…帰ります…」

アンは、ソフィアが走り去った方へゆっくりと消えていった。

 

 

それから何日か過ぎて…。

 

コンッコンッ

 

ピコ「あ、誰か来たみたい」

ドアを開けると、訪ねてきたのはソフィアだった。

ソフィア「………」

ゲイル「や、やあ」

俺は、彼女に何て言えばいいのかわからない。

ソフィア「おかげさまで無事、退院する事ができました」

ゲイル「そうか、よかったね」

ソフィア「今まで色々とありがとうございました…」

ソフィアは一礼すると静かに出ていった。

ゲイル「ソフィア……」

ピコ「一体どうしたの?あれからずっと暗くなって…」

ゲイル「いや、何でもない。ただ、少し不安があってな」

ピコ「それより……」

ゲイル「ああ。また始まろうとしている。これで、最後になることを祈りたい……」

ピコ「ゲイル…」

ゲイル「今は、双剣と聖剣を信じるだけだ」

 

 

それから再び数日が経ち、いよいよ戦争が始まろうとしていた。

 

続く……


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