青い海。
白い砂浜。
どこまでも澄みきった空。
シーエアー地区の海水浴場は、大いに賑わいを見せていた。
みんな水着になって夏休み最後の日を楽しんでいる中、少年が一人、シートの上で荷物番をしていた。
ケイゴ「海辺で娯楽……か」
故郷では、海辺で遊ぶことはなかったなと思いながら、浅瀬ではしゃいでるギャリックたちを眺める。
知らない女の子と一緒になって、バシャバシャ水を掻いている。
彼らの場合、ナンパが目的で海にやって来たのだということは前日の会話から耳にしている。
この暑さだ。ケイゴとて冷たい水につかりたい。
でも、ナイスガイコンテストやらこの前の戦ですっかり有名に(特に若い女性に)なってしまったため、下手に出歩くと混乱を招きかねない。
仕方なく、ケイゴは荷物番を自らかって出たというわけだ。
アシュレイ「何じゃ?お前は泳がないのか?」
ケイゴの隣に、アシュレイが腰を下ろした。
ケイゴ「ああ。だが、ギャリックたちみたいにはしゃぐのはどうも苦手でな」
ケイゴは、心にもないことを言った。まあ、半分は本当のことだが。
アシュレイ「そうか。じゃが、若い者には若い者らしいやり方がある。お前も少しは年齢相応のことをした方がよいぞ。なんせ、青春真っ盛りじゃからな。そうそう、儂の若い頃は……」
自分の若い頃の回想にトリップしたアシュレイを無視して、ケイゴは砂浜を当てもなく歩き出した。
ケイゴは、冷たいドリンクでもと近くにあった屋台に並ぶと、ソフィアとレズリーが前に並んでいた。
ケイゴ「お前たちも、来ていたのか?」
ソフィア「あ、ケイゴさん」
レズリー「ああ、あんたも来てたのか」
ケイゴ「まあな。天気もいいし、海を見に来たんだ」
と適当なことをケイゴは口にした。
ケイゴ「お前たちがいるということは、ハンナやロリィも来ているのか?」
レズリー「ああ、あいつらはあそこで泳いでるよ」
レズリーの指し示す先には、海の中ではしゃいでる二人の姿があった。
ケイゴ「お前たちもあの二人と一緒に泳がないのか?」
レズリー「あたしは泳げないんでね。浜辺で日焼けさ」
ケイゴ「ソフィアはどうなんだ?」
ソフィア「私も泳ぐのは苦手なんです」
ケイゴはそれを聞いて、微かに口元を緩めた。
この二人も、自分と同じ荷物番だということがわかると、彼はホッとした気持ちになった。
ドリンクを買ったケイゴは、ソフィアたちと一緒に、彼女らが陣取ったビーチパラソルの下で腰を下ろした。
ケイゴ「しかし、海とはこんなにも人を活気づかせるものなのだな……」
海水浴場で遊んでいる人々の姿を見て、ケイゴは純粋にそう思った。
ソフィアとレズリーもうなずく。
三人の間を、柔らかな潮風が吹き抜けていく。
そんな時だった。
三人の目に、とんでもないものが映った。
鋭角的なヒレが海面から顔を出したのだ。
ヒレの大きさから体長10m前後だと推測できた。
その姿を認めた海水浴客は悲鳴をあげ、慌てて陸に引き返す。
レズリー「ロリィとハンナは無事なのか?」
ケイゴ「ここではわからんな。見張らしのいい場所に移った方がいい」
ソフィア「そうですね。急ぎましょう!」
人混みを掻き分けた先から、海に取り残されたロリィが見えた。
レズリー「ロリィ!」
ケイゴ「泳げないお前が行ったところでどうなる!」
自らを顧みず海に飛込もうとするレズリーを、ケイゴが押さえる。
レズリー「放せ、放せよ!」
必死に抵抗するも、ケイゴの力は強くてなかなか抜け出せない。
そこに、ハンナが息を切らしながら現れた。
ハンナ「みんなここにいたんだ……あれ、何でケイゴもいるの?」
ケイゴ「その話は後だ。こいつを頼む」
彼は、暴れるレズリーをハンナとソフィアに押し付けると、海に向かって駆け出した。
監視員「こ、こら!君!今海に入っちゃいかん!」
監視員がケイゴを止めようとするが、それを難なく振りほどいてそのまま疾走した。
そして、そのまま海面を駆けたのである。
鮫騒動で浜辺に集まった野次馬や海水浴客は、我が目を疑った。
目を凝らしてもう一度ケイゴを見ると、やはり彼は海面を走っていた。
ロリィ「怖いよう……」
ロリィは、言い知れぬ恐怖に怯えたまま、そこから移動することができなかった。
鮫が、ぐるぐると自分の周りを周回している。
泳いでいる人をアシカやマグロなどと間違えて、鮫が襲ってくるということをロリィは知っていた。
だから、浮き輪に上に乗って、体が海水に漬からないようにしてはいるのだが、それでも襲って来ない保証はない。
現に、毎年十人前後が鮫に襲われて死傷しているのだ。
鮫のヒレを見るのも嫌だから、ひたすら空を眺めた。
時折、白い鳥が目に映る。
ロリィ(ロリィが鳥さんだったら、ここから逃げられるのになあ……)
とか思ってしまう。
だが、自分は鳥ではないので、助けが来るのを待つしかない。
憧れの王子様を……
ロリィ(王子様……)
ロリィが、まだ見ぬ王子様へ思いを馳せた時だった。
バシャバシャと音が近づいて来た。
何だろうと振り向いたロリィは、思わず声をあげた。
ロリィ「ケイゴお兄ちゃん!」
ケイゴが海面を疾走しながら、自分に向かって来たのだ。
鮫もそれに気づいたのか、ケイゴの足下に潜り込む。
勿論、それは彼の思惑通りだった。
ケイゴ「鮫狩りも一行か」
ケイゴは海面から跳躍すると、両手を突き出した。
ケイゴ「金剛武神流、霊光掌!」
気の塊が一直線に鮫にヒットした。
海面には大きな飛沫があがり、鮫の体躯が空気中に投げ出される。
ケイゴはもう一度海面を蹴って飛び上がり、鮫の尾ビレをつかんだ。
ケイゴ「Finish!」
そのまま高速で空中一回転をし、ケイゴは鮫を海面に叩き付けた。
高速で海に突っ込んだ場合、突っ込んだ物体にかかる衝撃はコンクリート並か、それ以上である。
当然、そんな衝撃に生物が無事でいられるわけがない。
鮫は仰向けになったままプカプカと浮き、その上にケイゴが着地した。
鮫が倒されたことがわかると、ビーチに集まっていた野次馬たちから歓声があがった。
一足遅れて、ソフィアたちを乗せた監視員のボートがやって来るのが見えた。
レズリー「ロリィ!」
ロリィ「……お姉ちゃ〜〜ん!」
ボートにあがるなり、ロリィはレズリーに飛び込んだ。
ケイゴ「これで、一件落着だな」
ソフィア「ケイゴさん。こんな無茶、あまりしないで下さいね。みんな心配しますから」
ケイゴ「……そうだな」
ソフィアに心配をかけてしまったようで、ケイゴは申し訳ないと思った。そして、ありがとうと思った。
ハンナ「ねえ、この鮫、どうするの?」
ケイゴ「ああ、これか?鮫のヒレは乾燥させるとフカヒレという中国では高級な食材になる。作り方は知っているから、ヒレだけ貰って帰るつもりだ」
鮫のヒレを食う、という東洋圏の発想に、ハンナたちは妙に感心してしまった。
ソフィア「どんな味がするんでしょうね?」
レズリー「う〜ん、高級食材ってくらいだから、うまいんじゃないのか?」
さっきまでの緊迫感はどこへやら……
フカヒレの話でボート上は盛り上がっていた。
ロリィ「ねぇ、ケイゴお兄ちゃん、もし、フカヒレができたら、ロリィにも分けてくれる?」
一番鮫の恐怖を堪能したロリィがこんなことを言ったので、みんな思わず笑い出してしまった。
ケイゴも、一瞬ではあるが笑ったような顔をした。
ロリィは、みんなが何で笑っているのかわからず、どうしたの?とみんなに聞き回る。
もうすぐ浜辺に着きそうだ。
後書き
どもっ、国士無双です。
ホントはレズリーの海イベントを書くつもりが、
鮫が出て来るわ、ケイゴが水面を走るわ、倒した鮫をフカヒレにして食うと言うわ、めちゃくちゃだよ、おい……
でも、ケイゴがどんだけ凄い奴か、書いてる私自身驚かされます。
ド○ゴン○ールの孫○空と互角に渡り合えるかも……
次回はソフィアの親父さん、ロバート・ロベリンゲ氏が登場します。
お楽しみに。