最初の訓練は、個人のレベルを見る為に一騎打ちを行う。
「おい、見ろよ、あの野郎」
「背中に剣かよ? だせぇ」
ゲイルの姿を見て笑う同じ傭兵達。彼らは東洋人だ。腰には立派な西洋の剣を収めている。
「お前、ある意味人気者だな」
「だろうな。けど、双剣を甘く見てもらっても、困るけどね」
ゲイルは軽く微笑む。その時、彼の名を呼ぶ声がした。
「次、ゲイル=ラバーナ=ウィナー! お前のその背中の剣の実力を見せてみろ!」
教官であり、大尉でもあるヤング。彼もまた、ゲイルの双剣に興味を持っていた。なにせ、双剣などと言った片手で持つ剣は扱いにくい。二刀流の戦士は、かなりの実力者としかいえないほどだ。
「そんな見かけだけの剣で勝てるのか?」
目の前に立つ東洋人である傭兵が訊いてくる。
ゲイルは静かに双剣を引き抜き、左手の剣の先を相手に突き向けた。
「見かけだけかどうか、お前の身体で確かめて見ろ」
その言葉に、相手は応答する。
相手は剣を下にして駆けてくる。ゲイルは双剣を逆刃にして相手の動きを見ていた。
(距離は十分。あとは――――!)
相手が剣を振り上げた。その瞬間を狙い、双剣が素早く振り落とされる。
刹那、胸を中心に十字に切りつけられ、相手は吹き飛ばされる。
しかし、死んではいない。逆刃で斬られたので、強い衝撃が走っただけだ。
(ほう。腕は達者のようだな)
ヤングは心の中で感心していた。双剣使いは、元々かなりの腕が必要とされる。
しかも、ゲイルは双剣に慣れている。書類に書かれている年齢は信じられないほどだ。
17歳と言う若さでここまで腕が立つのなら、後々は大物になりかねない。
「まあ、ヴァルティス聖騎士団の元副団長にとっちゃ、朝飯前だな」
ショウは頭を掻きつつ、ゲイルの一撃で気絶した相手を眺めていた。
13と言う若さで聖騎士まで至り、そして一年で副団長となったゲイルは、もはや天才だ。
「ゲイル、次は手加減しろよ」
「分かってるけど。そうもいかないようだ」
目の前に立ったのは、大男だった。背丈はかなり高い。
スキンヘッドの頭が妙に目立っており、鎧が似合うはずもない。
「確か、今朝、棍棒を振り回していたはず…………」
今朝の事を思い出す。巨大な棍棒を振り回すほどの怪力を持つ男。おそらく、こいつがそうだろう。
「俺はゲイル=ラバーナ=ウィナー。お前は?」
「北迅。北迅峯柾でござる。手加減はしないでござるぞ」
「それは、こっちもだ」
ゲイルは間合いを取った。ホクジンは棍棒を片手で持っている。
丸太の両先に、ただ金属をつけたような棍棒を片手で持ち上げるほどの怪力に、思わず苦笑する。
「おい、あいつ、かなりの怪力だぞ」
「しかも、あんな背丈は鬼じゃねえのか?」
周りの傭兵達が、ホクジンの事で話している。
なるほど、とゲイルは思った。ショウから聞いた話では、ホクジンほど背丈が高い人間は「鬼」と呼ばれている。
確かに、鬼だ。しかし、強さは本物だろう。
「さあ、いくでござるよ、ゲイル殿」
「ああ。早めに終わらせてやる」
双剣を握り、ゲイルは駆け出した。
一瞬で決着をつける。それ以外に勝つ方法は、おそらくないだろう。ホクジンが棍棒を上段に構え、力強く振り落とした。
「チェストォォォッ」
ゲイルは距離を考え、後ろに下がる。今までいた場所にまで棍棒は届いた。叩きつけられた場所が、ホクジンの怪力によって地を割いている。
「もう一発――――!」
「――――!」
再び上段に構え、振り落とそうとするホクジン。
その行動を、ゲイルは見逃す事はなかった。瞬時にホクジンへ接近する。右手の双剣が、逆刃のまま、ホクジンの腹部で寸前で止められた。
「ぬ!?」
「もし、これが逆刃じゃなかったら、死んでいたな」
ゲイルは軽くホクジンの腹部を剣で当てる。ホクジンは高々と笑いを上げた。
「拙者の負けでござるな。さすがでござる、ゲイル殿」
「そっちこそ、あの一撃を受けていたら、死んでいたぜ」
ゲイルも軽く笑う。
「あちゃー、あんな馬鹿力、見た事ねえぜ…………」
「次、ショウ=カミカゼ」
「あ、はっ」
一瞬間をおき、ショウはヤングに呼ばれた方へ向かった。
『やっほー、ちゃんと訓練してた?』
今までどこにいたのか、ピコが話しかけてくる。
『当たり前だろ。それよりも、どこに行ってたんだ?』
『この国を色々と見てきたのよ。それでね、ゲイル』
ピコがゲイルの肩に座り、俯く。
ゲイルは「どうかしたか?」と訊いた。ピコは申し訳なさそうに答える。
『あのね……どうやらこの国の相手は、ヴァルファバラハリアンらしいの…………』
『……だろうな。なにせ、破滅のヴォルフガリオにとって、この国は落としたい国だからな』
『うん…………』
俯くピコに、ゲイルは微笑んだ。
『なに、大丈夫。今の俺は、もう昔の俺じゃないんだから』
そう言っていたゲイルだが、その時の彼の瞳は、どこか悲しげだった。