第五話「星に迫る影」


 

『本船はただいま、ドルファン港に到着しました。下船なされる際は、お忘れ物の無きよう、お足元に気を付けて…………』

「やっと着いたようね……」

 ドルファン港に入港してくる客船の甲板から一人の少女が、次第に近付いてくるドルファン首都城塞の様子を眺めている。

 三つ編みにしたロングヘアを風に吹かせ、白い陶磁器を思わせる顔には、およそ表情と言う物を窺い知る事はできない。そして、両方の手には不釣り合いなほど真っ赤な手袋がされていた。

「ここに、今回の目標となる人物が……いる」

 少女の冷たい色を湛えた瞳は、まるで何かを捜し求めるように揺らいでいた。

「あの、失礼ですけども」

 突然声を掛けられて、少女は振り返った。

 そこには、制服を着た女性が立っている。

「出入国管理局の者ですけど」

「何か?」

 少女は、感情の起伏を感じさせない声で尋ねた。

「こちらの書類にサインをお願いします」

「…………」

 少女は無言で書類を受け取ると、慣れた手つきで自分の名前を書き込んだ。

「ライズ・ハイマーさん……あなたはスィーズランドからの留学目的で入国を希望された、間違いありませんね」

「ええ」

 ライズと名乗った少女の答えを聞いて、管理局の女性は暫く書類を眺めてから顔を上げた。

「結構です。ようこそドルファンへ。あなたの生活が有意義な物である事を心よりお祈り申し上げます」

「……ありがとう」

 それだけ言うと、管理局の女性は背中を向けていってしまった。

「…………手荷物検査もしないなんて、お粗末の極みね」

 その背中を眺めて、ライズはそっと呟いた。

 

「平和ね」

 ライズの上陸後、第一声がこれであった。

 この国が現在戦争の真っ最中である事は、彼女も知っている。だと言うのに、この港は何事も無いように平和な風景を作り出していた。それが、彼女の目には若干のギャップに映ったのだろう。

 その時だった。

「放してよ!僕急いでるんだから!!」

 どこからともなく、言い争う声が聞こえてきた。

「……あら?」

 見ると荷物の影で、数人の男が一人の少女を取り囲んでいた。

「…………」

 ライズは少し考えてから、そちらの方に足を向けた。

 

「どうして僕が、君達に付き合わなくちゃ行けないんだよ!」

 数人の男達に囲まれて、ハンナ・ショースキーは吼えている。

 そんなハンナを、男達は下卑た笑いを浮かべて眺めている。

「それが、俺達にぶつかってきた奴の言い草か。ん?」

「俺達ゃ、詫び入れろって言ってんだよ、テメエによ!」

「そんなの言いがかりじゃないか!ぶつかってきたのはそっちだろ!」

「関係ねえんだよ、そんなの!」

「ん、いてててててててて!!」

 男達の一人が、わざとらしく胸を押さえる。

「どうした大丈夫か?」

 尋ねる男の態度もまた、わざとらしい。

「うっ、アバラが折れたなあ……」

「ほう、そいつは大変だ。こりゃあ、慰謝料もかねて、付き合ってもらうしかねえわな」

 そう言って、男達はハンナの包囲を狭めてくる。

 その時だった。

「騒々しいわね」

 不意に声がして、男達は一斉に振り返った。

「何だと小娘?」

「大の男が数人掛かりで、騒々しいって言ってるのよ」

 その言葉に、一人の男がライズに近寄る。

「小娘が、いきがってんじゃねえぞ!」

「……そう……」

「澄ました顔でしゃべるんじゃねえ!!」

「…………」

 次の瞬間、ライズの裏拳が男の顔に炸裂した。

「ぐおォォォォォォォォォォ!!」

 鼻を押さえてのた打ち回る男。

「これくらいもよけられないなんて、未熟ね」

 ライズは冷ややかなめで男を見下ろす。

 それに対して、他の男達も身構える。

「調子に乗るなよ小娘!!」

 残った男達は、得物を抜いて一斉にライズを包囲する。

「あっ、危ない!!」

「大丈夫よ、下がってなさい」

「へへ、自分の心配をしろってんだ!!」

「……そう……」

 次の瞬間、ライズは動いた。いや、動いたように見えた。

 ハンナが瞬きした直後には既に、男達は全員地面と熱い抱擁をしていた。

「すっ、すごい……」

 ハンナは呆気に取られて、勝者よろしくうめく男達を見下ろすライズを眺めていた。

「そこのあなた」

「え?」

 呼ばれてハンナは顔を上げる。

「行くわよ」

「うっ、うん」

 背中を向けて歩き去るライズを、ハンナは慌てて追った。

「君って強いんだねえ」

 追いついたハンナが、話し掛けた。

「助けてくれてありがとう。僕はハンナ・ショースキー、君は?」

「……ライズ・ハイマー……」

「へえ、ライズって言うんだ。よろしくね」

「……そう……」

 そんなハンナに、ライズは構わず歩き続ける。ハンナもハンナで、構わず話し続ける。

「ひょっとしてライズってさ、留学生?」

「それが、何か?」

 否定しないのを肯定と受け取って、ハンナは質問を続ける。

「どこから来たの?」

「スィーズランドよ」

「へえ、スィーズランドからドルファンに、けっこう変わってるんだね?まっ、僕の友達には、東洋から来たなんてのもいるから、まだましだけどね」

 それを聞いて、ライズは足を止めた。

「どしたの?」

「あなたの友達に、東洋人がいるの?」

「うん。傭兵やっててさ、僕より一つ年下なんだけど、けっこう可愛い奴でさ」

「…………その話、詳しく聞かせてくれないかしら?」

「?良いけど……」

 急に態度が変わったライズに怪訝になりながらも、ハンナは自分の知り合いの東洋人傭兵、シュン・カタギリについて語り始めた。

 

「…………それでさ、野犬に襲われた時、一緒にいたハンガリアの傭兵の人と二人で助けてくれたのが始まりなんだ」

「……そう……」

「ん〜、後は……時々登下校の時会って、会話する程度かな?夏休みの間にみんなで会おうかって話しもあったんだけど、その時僕、バイトで行けなかったんだ。こんなんだけど、役に立った?」

「ええ…………お陰で少し、輪郭がつかめたわ」

 ライズは言葉の後半部分を、聞き取られないように小声で言った。

「え、何?」

「何でもないわ」

「ふ〜ん。まっ、いいか。それじゃあ僕、家がこっちだから」

 そう言うとハンナは、ライズとは別の方向に歩き出す。

「今日は助けてくれたありがとう」

「もう、あんな所に行くのはおよしなさい」

「うん、そうする。これからは迂回するよ」

 そう言うとハンナは手を振って去っていった。

 それを見送ってから、ライズはそっと呟いた。

「…………シュン・カタギリ…………フッ、意外と、優男のようね……」

 

 

 翌朝、もう一人の人物は、

「ピコの、馬鹿ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 魂の叫びを上げながら、朝露に濡れたドルファンの町並みを爆走していた。

「どうして起こしてくれなかったの!?これじゃあ、遅刻だよ!!」

『起こしたよ〜、夕べ言われた通りの時間に、でもそのたんびに後五分、後五分って言うから、結局こんな時間になっちゃたんじゃない。自業自得だよ』

 ピコは、シュンの肩に腰掛けて、ぼやくように呟いた。

 今日は野外演習の為、集合場所は首都城塞の外なのだ。その為、朝に弱いシュンはピコにモーニングコールを頼んだのだが、結局こんな時間になってしまった。

『まっ、諦める事だね。観念してみんなに叱られなさい。君には良いクスリだよ』

「そんな、人事だと思って!!」

『だって人事だもん』

 ピコはさらりと言い捨てた。

「くっ、仕方が無い」

 どうあっても間に合いそうも無いと思ったシュンは、最後の手段に訴える事にした。

「天破無神流、襲影斬!!」

 と言っても、何かを斬る訳ではない。その残像を残すほどの超スピードを持って、加速したのだ。

『うわ、たかが遅刻に技使ってるよこの子』

 そんなシュンを、ピコは呆れ顔で眺めるしかなかった。

 しかしその時だった。

「キャッ!?」

「うわぁ!?」

 突然横道から出てきた人影と、シュンは接触してしまった。

 その人影が倒れるのが見える。

「うわぁ!大丈夫ですか!?」

『馬鹿!大丈夫な訳ないじゃん!』

 シュンは倒れた人物に、手をついて謝る。

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「…………何度も謝る必要はないわ」

「へ?」

 シュンは顔を上げると、そこには何事も無いように立っている少女がいた。

「あの、ホントに何とも無いんですか?」

 シュンは恐る恐る立ち上がって聞いた。

 それに対してその少女──ライズは、服についた汚れを落としてからシュンを見た。

「ええ。当たり所が良かったみたいね」

『そんな馬鹿な……』

 シュンは、心の中でうめいた。

『あのスピードで体当たりを掛けられたら、へたをすれば壁にだって穴が空くのに……』

 そんなシュンの疑問をよそにライズは、シュンの腰に差した刀に目をやった。

「あなた、傭兵?」

「はい、そうです」

 そう言うとシュンは、あらためて身なり正し、ライズに向き直る。

「ドルファン軍傭兵部隊隊長付き副官、シュン・カタギリ陸軍准尉です」

「そう、私は、ライズ・ハイマー。憶えておくわ」

 そう言って、ライズはシュンに背中を向ける。

「あっ、あの!」

 シュンに呼び止められて、ライズは振り返った。

「何?」

「どこか具合が悪い所があったらご連絡ください。弁償はしますから!」

「……そう……」

 そう言うとライズは、シュンに背を向けて歩き去った。

 しかしその顔には見ただけでは分からない程度の、微笑が浮かんでいた。

「まさか……これほど早く接触できるとはね……」

 一方のシュンは、そんなライズの背中をボーッと眺めている。

「何だったんだろう、あの人……あれだけの威力で体当たりされて、傷一つ無いなんて……」

 シュンの胸に、疑問がよぎる。

 そんなシュンに、ピコが話しかけた。

『ねえねえシュン』

「え、何?」

『良いの、時間?』

「…………あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 シュンは再び走り始めた。

 そんなシュンの背中を黙って見詰める複数の目に、まだ気付いていなかった。

 

 結局シュンが演習場に着いたのは、集合時間を三十分もオーバーしてからだった。

「……で、シュン、カタギリ君は、女の子とイチャついていて遅刻したと」

「いえ……イチャついていた訳では……ないんですけど……」

 居並ぶ幹部達の前で正座させられたシュンが、小さくなって弁解している。

「でも、女の子が理由で遅くなった訳だ?」

「うっ……」

 ギルバートの言葉が、シュンの頭に無形の槍となって突き刺さる。

「シュン……」

 リヒャルトが、シュンの前に立つ。

「はっ、はい?」

 額から大粒の冷や汗を流しながら、シュンはリヒァルトを見上げる。

「罰として、演習場十周を命じる」

「わっ、分かりました!!」

 

 

 ドルファン学園の校門をくぐった所で、ライズは不意に肩を叩かれて振り返った。

「おはよう、ライズ!」

 そこには、昨日知り合ったハンナがいた。

「あら」

 軽い驚きと共に、ライズはハンナを見た。

『今日は随分と、人と会う日ね』

 そんな事を考えているとは知らずに、ハンナはライズに話し掛けた。

「君、この学校に留学してきたんだ。何年生?」

「一年よ」

「へえ、僕と同じなんだ、よろしくね!」

「……ええ」

 そんなライズの淡白な反応に、ハンナは少し怪訝になる。

「君ってさ、なんて言うか、愛想無いって言われない?」

「さあ?でも、そう言う事はあまり口にすべきことではないわ」

「そうだね、ごめんごめん!」

 自分に謝るハンナを見て、ライズは少しだけ不思議そうな顔をした。

 ハンナのように、失敗しても明るく謝る事のできる人間は、これまで自分の回りにはいなかったのだ。

「そうだ、後で僕の友達も紹介してあげるよ。きっとみんな君の事、気に入ってくれるよ!」

「……そう……」

 そう言うと、ハンナはライズの手を引いて校舎の中に入っていった。

 

「へえ、港でハンナをねえ」

 ハンナは、親友でありクラスメートでもあるソフィアとレズリーに、ライズを引き合わせた。

「よろしく」

 相変わらず物静かな対応をするライズだが、それに対する二人の反応は、普段と変わらず明るい物である。

「よろしくライズさん。ソフィア・ロベリンゲです」

「あたしは、レズリー・ロピカーナだ。よろしくな」

 二人は名乗ってから、思い出したように言った

「そう言えばさ、ソフィアもシュンに助けられた事あったっけな」

「ええ。危ない所を助けてもらったわ」

 ソフィアは、そう言ってライズを見る。

「なんだか状況が、良く似てますね」

「……そうね」

 それからさも思い出したように、ライズが口を開いた。

「そう言えば、そのシュンと言う子、今朝、会ったわ」

「「「え?」」」

 三人は、一斉にライズを見た。

 それに構わず、ライズは続ける。

「今日、登校の途中に曲がり角でお互いぶつかったわ。何だか急いでたみたいだけど」

「急いでた?何でだろう?」

「さあ?」

 ハンナとソフィアは、互いに顔を見合わせる。

「ああ、そう言えば」

 レズリーが笑いながら、口を開いた。

「そう言えば昨日会ったな。確か、今日は町の外で演習をするって言ってたよ」

「へぇ、て事は、また朝寝坊したんだな」

 ハンナの言葉に、ソフィアとレズリーは笑い出した。

 そんな光景をライズは、冷たい目で眺めていた。

 

 

「ふい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 何とも気の無い声を出しながら、シュンは家路をふらふらと歩いていた。

 首都城塞の外にある演習場は、数個軍団が演習を行えるだけの広さがる、その為、それを十周するとなると、丸一日掛かってしまうのだ。

『大丈夫、シュン?』

 シュンの頭に乗っかったピコが、身を乗り出して尋ねた。

「大丈夫くない〜〜〜〜〜〜〜」

『まっ、これに懲りたら、少しは早起きを心がける事だね』

「ピコ……」

『ん?』

「頭に乗られると……重い……」

『あのね……』

 ピコが呆れ顔で頭の上からどいた時だった。

「あら?」

 突然傍らで声を掛けられて、シュンは顔を上げた。

 そこには今朝激突し、遅刻の原因を作った少女がいた。

「ライズさん!」

 シュンは跳ね上がるように立ち上がった。

「こんな所で何してるの?」

「ちょっと……疲れちゃって……」

 シュンは力無い笑みをライズに向けた。

「そう言えば、その後、大丈夫ですか?」

「何が?」

「ほら、今朝の事」

 シュンに指摘されて、ライズはああっと言った感じに首を振った。

「別に問題は無いわ」

「良かった」

 ライズの言葉に、シュンはニッコリ微笑んだ。

「今日の訓練は、そんなにきつかったの?」

「もう、きつかったなんて物じゃないですよ」

 そう言うとシュンは、今日の訓練の事を話し始めた。

 ライズはシュンの話の内容にいちいち頷きながら、その一語一句を聞き漏らさないよう耳を傾けているようだ。

 そしてシュンはと言うと、そんなライズの反応に構わず話し続けている。

 二人連れの男女のうちの片方が、一方的に放し続けている光景は、端から見れば奇妙とも取れるが、当人同士はまるでその事を気にしていない。

「あっ」

 広場まで来た時、シュンは声を上げた。

「どうしたの?」

「ちょっと待っててください」

 そう言うとシュンは、ライズを残して人込みの中に駆けていった。

 暫くして戻ってきたシュンの両手には、アイスクリームが一本づつに握られていた。

「はい」

 そう言うとシュンは、左手に持っていたミント味のアイスをライズに差し出した。

「どういう事?」

 ライズは怪訝そうな顔で、シュンの顔と差し出されたアイスを見比べる。

「今朝ぶつかってしまった、せめてものお詫びです」

「別に、気にしなくて良いと言っているでしょ」

「それじゃあ、僕の気が済みません!」

 シュンの強い口調に、ライズは少し顔をしかめる。

「それとも、嫌いですか?アイス……」

「……戴くわ」

 折角なので、ライズはミントのアイスを受け取ると、口に運んだ。

 ほのかな甘さと、スーッとする爽快感が口の中に広がっていく。

「…………美味しい」

 ライズはポツリと換装を呟いた。

「良かったです」

 そう言うと、シュンはニッコリ微笑んだ。

「それじゃあ、僕の宿舎はこっちですので」

「じゃあ、ここで別れましょう」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ。今度は、遅刻しないようにしなさい」

「は〜い」

 シュンはライズに手を振ると、宿舎への道を歩き出した。

 

 

 シーエアー地区は港に面している事もあって、深夜近くまで人の通りが耐えない。

 現に表通りは、まるでお祭りさながらの賑わいに包まれている。

 しかしシュンはそんな表通りを帰らず、会えて人気の少ない裏道を使って帰っていた。

 表通りに人が集中する反面、裏通りは人の気配どころか家から零れ出る光すら耐える道がある。シーエアー地区に住居を構える女性なら、決して夜で歩くような真似はしない道だ。

 その通りに差し掛かった時、シュンはピタリと歩くのを止めた。

『どうしたのシュン?』

 そんなシュンの様子に、ピコが心配そうに見詰める。

「…………ピコ」

『何?』

「離れて」

『え?』

 次の瞬間、シュンは刀の鯉口を斬ると、そのまま鞘走らせた。

 白刃の一閃が、月光に反射して闇を切り裂く。

 次の瞬間、シュンの真横で悲鳴が上がり、真っ赤な血飛沫が舞った。

『わっ!』

 ピコは慌てて上空に舞いあがって避難する。

 それを確認してから、シュンはゆっくり口を開いた。

「出てきてください。まだ、いるんでしょう?」

 シュンは虚空に向かって呼びかけた。

 それに答えるように暗闇の中から、十人近い黒装束の者達が滲み出てきた。

 それはかつて、マリルストーン号の船倉でシュンを襲った者達と同じいでたちをしていた。

「…………本国からの、刺客ですね?」

 シュンは、自分を囲んだ者達を見据えながら言った。

「その通りだ」

 くぐもった声が、シュンの耳を打つ。

 それと同時に黒装束の者達は、一斉に抜刀する。

「スィーズランドまで貴様を追っていった連中からの音信が途絶えたので調べてみたら、ドルファンに向かったと聞いた。しかも、先のイリハ会戦では随分と派手に活躍したらしいではないか?お陰で貴様を探し当てるのは容易だったぞ」

「…………」

 シュンは刀を無形の位に構えたまま、一言も口を開かなかった。

 それに構わず、黒装束は戦闘態勢に入る。

「片桐瞬!主命により貴様の首、貰い受ける!!」

 叫ぶと同時に、一斉にシュンに斬りかかった。

 それに対してシュンは、その場をまったく動かない。

 そして、ゆっくりと刀を目の前に掲げた。

「天破無神流……」

 次の瞬間、辺り一面に月光が乱反射した。

「襲雷斬!!」

 光の乱反射が終わった時、黒装束達は体中から血飛沫を吹き上げ絶命していた。

「…………」

 シュンは刀を振って血糊を落とすと、ゆっくりと鞘に戻した。

「…………もう、来たんだ…………」

 そのシュンの言葉に答えるように、唯一人生き残った黒装束が身を起こした。

「こっ……こうして……無事でいられるのも……今のうちだぞ片桐……」

「……え?」

「既に……貴様の事は…………スィーズランドにいる本隊に……早馬で伝えた……間もなく……新たな刺客がやってくるだろう……」

「…………」

「クックックッ……もうすぐ……だ……もうすぐ、貴様……も……」

 そこまで言って、黒装束は事切れた。

「…………それでも…………僕は…………」

 シュンの低い呟きは、闇に融けて消えていった。

 

 そんなシュンを、物影からライズが見詰めていた。

「…………思った以上に、できるようね」

『もっとも、これくらいできなくては、ネクセラリアを討ち取る事など不可能でしょうけど』

 そう思ったライズは、ふと、頭の中に引っかかる物を憶えた。

『そう言えば、シュンを襲ったあの連中、何者かしら……?シュンは本国からの刺客と言っていたけど……』

 ライズは、もう一度壁越しにシュンを見る。

『もっと、調べる必要が有りそうね』

 そんなライズの視界の中で、シュンの背中が小さくなっていった。

 

第五話「星に迫る影」  おわり


後書き

 

こんにちはファルクラムです。

 

今回は、ライズの登場と言う訳で、彼女の視点を多く取りいれてみました。

さて、皆さんの中には「なぜハンナ?」と思われた方も多いと存じますが、種を明かしますと、Rにおいて、もっともライズと相性が良いのがハンナだと言う事に着目し、「この二人が親友になったら面白いかもな」という、これまたいい加減な発想から生まれました(平にご容赦を)。

性格が正反対な二人だけに、今後どうなっていくのかが、楽しみでもあります。

また今回、シュンに対する刺客達も現われ始め、見えざる敵との戦いも始まりました。そちらの方も、ご期待ください。

 

それでは、今回はこの辺で失礼します。

 

ファルクラム


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