12月1日、カタギリ達に出撃命令が下った。今度の戦いはテラ河を挟んでの戦いになった。カタギリ達は中隊隊長の任を与えられた。
「落ち着け!テラ河を渡ろうとすれば少しは敵に隙が生じる!そこを弓でねらい、近付かれたら歩兵隊や騎馬兵隊で迎撃すればいい!」
戦況は五分五分だった。カタギリ達は一応勝っていたが、他の隊も合わせると五分五分である。
「ちっ…おもしろくねえ…」
ヴァルファバラハリアンのコーキルネィファはそうつぶやいた。こういう持久戦は嫌いなのである。
「第二部隊のうち、1,3,5は現状を維持!2,4は俺に続け!一気に敵陣を切り崩すぞ!」
「馬鹿な…敵の思うつぼだぞ!戻れ!コーキルネィファ!」
参謀キリングの声を背に、コーキルネィファは駆けだしていた。
「悪いな、キリングのじっちゃん…俺は気が長くないんでね!」
川の中頃まで来たコーキルネィファは吠えた。
「やい!ドルファンのクズども!俺と水遊びをしようなんて豪気な奴はいねえのか!?」
当然、コーキルネィファは囲まれたが、八騎将ということでほとんどの兵は腰が引けている。
「んっ?」
コーキルネィファが見たのは、レンの姿だった。
「お前は…レン!フカザキ…レン…」
レンはコーキルネィファの前に出た。2人とも馬から下りた。
「久しいな。コーキルネィファ。ヴァルファの訓練生の時以来か」
「ああ。お前のことは忘れない!ヴァルファ特殊武器部隊の訓練生の時、俺はお前に一回も勝てなかった!5戦全敗だった!」
「そんなことまで覚えていてくれたか…光栄だね…」
「今度は負けない。お前には1年のブランクがあるし、俺だってあのときから大分強くなったんだ!」
「計算上ではそうでも、事実はどうなるかな…?」
コーキルネィファはまっすぐにレンを見すえて、武器のニードルを向け、再び吠えた。
「お前には負けない!!俺は、今日こそお前を超えてみせるっ!!」
「…いくぞ、コーキルネィファ…」
レンの言葉が終わらないうちにコーキルネィファは仕掛けた。
(レン…必ず、必ずお前を、俺の前に伏させてやる!)
訓練生時代。
「くっ!」
「まだまだだな、コーキルネィファ!」
コーキルネィファの放った突きはレンの棒によって軌道をずらされてしまった。勢いでコーキルネィファの重心が不安定になったところをレンの棒が足を払った。
「くそっ!」
コーキルネィファは両手で受け身をとってすぐ立ち上がろうとしたが、
「ぐうっ!」
「俺の5連勝だな」
レンはコーキルネィファの背中に足を乗せ、ほぼ全体重をかけて地面に伏させた。棒はコーキルネィファの顔の真横、動こうとすればすぐ当てられる位置にある。
「ヴァルファバラハリアン特殊武器部隊」はその名の通りニードルや鎌、棒などの変わった武器を得物とする者が集うところである。
ヴァルファは5つの部隊に分かれている。二刀流やレイピアも含めている「剣兵部隊」。槍斧(そうぶ)も含めている「槍兵部隊」。残りは「弓・銃兵部隊」と「工兵部隊」、そして「特殊武器部隊」である。
もちろんカタギリは「剣兵部隊」、シンは「槍兵部隊」にいた。
「特殊武器部隊」以外の部隊は教官と訓練生、この2つのみで作られている。小隊隊長以上の階級が「教官」となり、小隊副隊長以下の「訓練生」に訓練を施す、というシステムになっていた。
ところが、「特殊武器部隊」には教官などいない。武器の種類が多種すぎて教官を作ったとしても、「どんな武器でも達人の域で扱える」という者は存在しない。いたとしてもそれは「神」である。何せ武器など星の数ほどあるのだから。
「さて、次も勝たせてもらうからな」
「くそっ…」
この後すぐ、レンは八騎将に加わることになり、2人が戦う為には、コーキルネィファも八騎将になり、八騎将同士の手合わせの時間を使う他にはなくなった。
コーキルネィファもすぐに八騎将になったが、その時にはレンはすでにカタギリ達とともにヴァルファを辞めていた。
そして、2人は今、テラ河で3年ぶりの戦いを始めようとしていた。
「くそっ…」
苦戦しているのはレンだった。コーキルネィファが周りを回っている。速い。コーキルネィファの動きが速すぎて棒が当たらない。レンの体には数秒に一回切り傷が刻まれていく。カウンターを当てようとするがそれすらも避けられてしまう。
「どうしたっ?事実はどうだこうだと言っていたときの勢いはどこに行った!?」
四方八方から声が聞こえてくる。
しかし、レンも仮にも八騎将に加わったことのあるぐらいは強かった。だんだん目でコーキルネィファの動きを追えるようになってきた。
「そこだっ!」
バシッ…という音が響いた。移動力を重視して重心が不安定なコーキルネィファの腹にあたった。しかし、棒の根元の方なのでダメージはかなり軽い。
コーキルネィファは間合いを取った。レンは棒の先端をコーキルネィファのほうに向けた。
「ここからだ…」
「へっ…そこから巻き返すつもりかよ…」
レンの体には20を越える切り傷が出来ていた。
「ああ…また、勝たせてもらう」
「…やってみろっ!」
コーキルネィファは今度は一直線に向かってきた。スピードを生かした突き。
「ふっ!」
リーチならレンのほうが長い。棒をつきだした。が、
「甘いっ!」
コーキルネィファは体を回転させながら横に移動し、突きをかわした。
「…なっ…!?」
驚いたのはコーキルネィファだった。ニードルは空をなぎ払った。
「はあっ!」
真下から腹へ、強烈な突きがコーキルネィファにあたった。
「ぐうっ…」
「まだだっ!」
棒を使ってコーキルネィファを高く浮かせた。
レンの得意だった技。
すぐにレンは相手より高くジャンプ。相手より上に行くときに下から叩き、相手より高い地点にきたら上から叩く。
「ぐあっ!」
腹への突きで、動く速さが少し鈍くなっていたコーキルネィファは、大きなダメージを受けた。
「止めだっ!」
ふらふらと立ち上がるコーキルネィファの頭を叩こうとした。しかし、コーキルネィファはレンの体の横をすり抜けてかわした。
直後、レンは体に違和感を感じた。そしてそれは激痛に変わった。
「ぐっ…?」
「…痺れるだろう…?」
スパークリングニードル。
ニードルに大量の電気を流して攻撃する、コーキルネィファの必殺技。
「…ちょうど、肩が凝っていたんでね…」
冷や汗を流しながらも、レンは笑っていった。
「なら、もう一度食らわせてやるよ!」
コーキルネィファは突進してきた。
「っ!」
短い声とともに、レンは棒高跳びのように、その場で自分の体を、2メートルほどの高さまで上げた。
「なにっ!?」
コーキルネィファは勢い余って2メートルほどレンの下を通り過ぎた。すぐさまUターンして再度、攻撃に移ろうとした。
「ぐうっ!」
だが、着地後すぐに距離を詰めていたレンの棒が右脇腹にクリーンヒットした。
レンは追い打ちをかけ、コーキルネィファは両手両足の骨を砕かれた。
「く…やっぱり…お前…強いな…」
勝敗は完全に決した。
「俺は…お前を…超え…」
コーキルネィファの言葉はそこで途絶えた。
苦しまずに死ねるように、レンは完全にとどめを刺した。
コーキルネィファの戦死によって、士気の落ちたコーキルネィファの部隊を殲滅、ドルファンは勝利を収めた。
八騎将の半分をヴァルファは失った。戦いは、確実に終わりに近付いてきた。
あとがき
O2 星輪です。
あと3つです。3話分で終わりです。
こんなレベルの低い作品ですが、どうか最後までつきあってください。
次回の場面はD29年1月4日〜1月11日のオリジナル戦争で、タイトルは「八騎将、新たな一人」です。
オリジナル八騎将の登場です。欠員補充みたいな感じですが。「彼」の名前は「R」の「O2 見えざる閃光」から取りました。
楽しんでもらえるとうれしいです。では。