6話「八騎将、新たな一人」


 D28年の終わりに、前の戦争によって廃墟となった、ドルファンの国境近くでヴァルファの3個中隊の基地が見つかった。

 偵察兵の話によると、ここはベルシス郷などから物資を受けとる、いわば「補給地点」のようなものだという。ヴォルフガリオもいないらしく、ドルファンにとっては格好の攻めの目標になった。

 

 

 D29年1月2日、ドルファンの送った1個大隊の残兵が戻ってきた。全滅、という事実を伝えに。

 兵士の損耗率はヴァルファの3倍。基地の壊滅に3倍以上の兵力を使うわけにはいかず、軍上層部は新しい1個大隊と、戦功をあげている傭兵団を出撃させることにした。

 

 

 D29年1月4日、カタギリ達に出撃命令が下った。

(間違いなく、兵は補充されているだろうな…)

 補給地点であると同時に、敵の戦力を削ぐための「囮」としてある程度の兵と良将を置いておく、ならば兵力を補充しておかないと、いきなりの大軍には対処できない。

 偵察兵の話によると、1個大隊分の兵が目撃されたようだ。そして敵の編成は、「歩兵」、「弓兵」、「工兵」、そして「銃兵」が確認されたという。

 まるで一つの都市のようなその基地は、中心の即席の砦や見張り台に銃兵や工兵などの、遠距離攻撃の可能な兵を配置し、歩兵はそれらをかいくぐってきた敵兵を討つ、という完全防御の態勢を取っていた。

 兵糧攻めをしようとすれば、銃や法術の射程距離から離れなければならず、また、そうするとプロキアやゲルタニアの領地に入ってしまう。

 ヴォルフガリオの行方がわからなくなった今、プロキアやゲルタニアの政府は、ヴォルフガリオの奇襲をおそれ、この基地に手出しはしなかった。

 

 

決戦

 

「くそっ…!」

 銃と法術、さらに弓の混成攻撃にこれほど苦戦するとは思わなかった。銃を防ぐために盾を持った兵を先行させれば法術が、そして騎馬隊を先行させれば銃と弓…カタギリ達の隊も苦戦を強いられていた。

「大弓隊はまだか!?」

 騎士団達もこうなっては、嫌っている傭兵達と協力するしかなかった。弓兵に普段の弓ではなく、強力な「大弓」を装備させ、見張り台の上にいる敵兵を攻撃し始めた。

 さらにドルファンから弓兵が1個大隊分送られてきて、勝負はついた。

 この弓兵達が到着したときには、敵は8割ほど残っていたにもかかわらず、その時には騎士団の兵数は半分、傭兵達の数も6割ほどになっていた。

 シンやレンも無傷とはいかなかった。腕をやられた。利き腕と反対なのが幸いだった。それでも歩兵を三十人ほどずつ倒したのはさすがだが。

 カタギリは指揮をとっていたので比較的軽傷だった。流れ矢や、流れ弾がかすったりはしたものの目立った傷はない。

 

血戦

 

「くそっ…さすがに、抑えきれないか…」

 基地の中心の砦の中で、ここのヴァルファの指揮官は、この基地の最後を悟った。

「デュノス様…御武運を…」同時に、自分の最後を。

 指揮官は砦を飛び出し、ドルファン軍に向かって叫んだ。

「ドルファン軍の者に告げる!我が名はレイト!ここの守備隊長であり、残りの八騎将が一人である!この首を取らんとする者はいないのか?」

 ドルファンの騎士団はいつも通り、周りを囲むだけだった。傭兵団もレイトからのプレッシャーに動けないでいた。

 突如、一本の矢がレイトの右側からレイトの首めがけて飛んできたが、レイトは前を向いたまま、武器でその矢をはじいた。

「どうした!ドルファンの騎士団は、一騎打ちすら恐れるほどに腐ったか!?」

 その言葉が終わってまもなく、一人の男が一騎打ちを受け入れた。もちろん、カタギリである。

「片桐…お前か…」

「相変わらず、珍妙な武器の組み合わせだな、零人(れいと)」

「ふん…俺を差し置いて八騎将になった事のあるお前が、この腐った騎士団のある国に味方している事の方が、よっぽど珍妙だぞ…?」

「かもな…」

 

 零人…本名、白仙(はくせん)零人。東洋人。

    歳はカタギリ達より1つ下。カタギリとともに、ヴァルファバラハリアンの「剣兵隊」に所属していた。仲はそんなに悪くはなかった。良いとも言えないが。

    カタギリとの対戦戦績は、7対3でカタギリの勝ち越し。零人の外見のイメージとしては、黒髪のカルノー。

    そして…彼の武器は…

 

「こんな御託はどうでもいいな…いくぞ、片桐」

 右手に大剣、左手にレイピアを、この極端に違う武器での二刀流。

 片手で大剣を扱うには大きさに制限が出てくる。しかし、非力な人なら両手でも持てないぐらいの大きさはある大剣。

 レイピアは、極力空気などの抵抗を受けないように、細く、そして飾りも何一つ付けられていない。剣身と、鍔、そして柄だけでできている。

「講釈だけじゃ、戦いには勝てないってやつか…零人」

 そして、間。

 先に仕掛けたのはレイトだった。ネクセラリア並のスピードだった。

「ぁぁっ!!」

 気合いの声とともにレイトはレイピアでの高速の突きをくり出した。

(…っ!くっ!)

 カタギリは剣を横一文字に振ったが、大剣で止められてしまった。

(攻撃の軸が、大剣からレイピアに変わっている…)

 元々、レイトは大剣を使っての攻撃が多かった。槍などとの高速戦闘をするときにレイピアを多用していたが、剣や斧相手のときは力負けを防ぐため、大剣を多用していたのだった。

 しかし、今度はレイピアでの高速戦闘。しかも前よりも突きの速度が速くなっている。これも、ネクセラリアに負けないほどのスピードがある。そして、片手で攻撃を止めてもパワー負けしていない。訓練生時代では、攻撃によってはガードしきれていなかった。

 そんなことをカタギリは考えた。

 横一文字に振った剣がまたかわされた。これで5,6回目ぐらいだ。後ろに跳んだレイトはじっとカタギリに隙ができるのをうかがっている。カタギリの体には、すでに無数の切り傷がついている。ただそれほど傷が深くないので、見た目よりはダメージは少ない。

(受けに回ると危険だな…)

 カタギリは一気にレイトとの距離を詰めた。レイトが左手のレイピアを突き出す。レイピアの刃の側面に剣の刃を這わせる。

(これで懐に入った…!)

左上から来る大剣を止めるために、レイピアを止めている剣を両手で左に持っていき、そして前傾姿勢をとる。ふつうに立っているよりは大剣が体にとどくのが遅くなるはずだ。

 大剣を止めたとき、やけに低い音が響いた。いつもよりやけに低い音。

(ぐううっ!!)

 洒落にならない衝撃が体を襲った。体が揺れ、視界がぶれるほどの衝撃。心なしか足下が地面に埋まっているように見える。

(ボランキオ並の力だ…!)

 カタギリが1年半前戦ったヴァルファ八騎将の一人、バルドー・ボランキオ。

 巨大な槍斧を怪力で扱い、不動の異名の、あの男。

(片手でボランキオ並の力か…!)

レイトは左手を引いてレイピアを突き出す準備を既にしていた。だが、レイトが大剣にこめている力は変わっていない。迂闊に剣を引けば大剣でやられる。

(これしかない…っ!)

 カタギリは左腕部分の鎧を大剣に密着させ、剣を離した。これなら勢いがついてない分やられにくい。右手で剣を持ち、斬りつける。

 レイピアは左肩を貫いた。左手一本でボランキオの力を止めるには無理がある。体が右へスライドし、そこでレイピアの攻撃があたったのだった。体(正確には心臓付近)を狙ったはずだったのだが、自分自身の力によってレイトは攻撃を失敗したのだった。

「おおおぉっ!」

 カタギリは気合いとともに思いっきり横一文字に剣を振った。レイトの胸から血がしたたり落ちた。カタギリは後ろに跳んで距離をとった。

「くっ…」

(勝負あったか…?)

「ま…まだだぁぁっ!!」

 そう叫んで、レイトは今まで以上のスピードでカタギリに近付いた。

「なっ…?」

「おおおおぉっ!」

 レイピアでの突き。ネクセラリアのレッドイリュージョンを凌駕するほどの高速で。

「ぐっ!」

 両手両足をレイピアで突かれ、バランスを一瞬失ったところへ、大剣での十文字切りが襲った。

「ぐああっ!」

 カタギリの鎧と下に着ていた服が真紅に染まった。カタギリは地に伏した。

 

「デッド・クロス」…レイトの必殺技が完全に決まった。
 

「悪いな…片桐…勝たせて…もらったぞ…」

「…かっ…てに殺す…な…」

 そういって片桐はフラフラとしながらも立ち上がった。

「俺…にもな…とっておきがあるんだよ!」

 カタギリは間を詰めて一発勝負にかけた。カタギリの「舞桜斬」をかわす余裕はレイトにはもうなかった。

「うぐっ…」

「あと一歩…だったな、零人…」

「…」

「お前らしい必殺技…だったな…『十字架は、勝者には神の加護に、敗者には墓標の十字架になる』だったっけ…お前の…口癖は…」

 

 

 カタギリとレイトの戦いはカタギリの辛勝で幕を閉じた。

 カタギリはこの言葉の直後に気を失って、シンに病院まで運ばれた。

 ヴァルファの残兵は、皆が一騎打ちに気を取られているうちに逃げたらしい。砦の中には誰もいなかったそうだ。おそらく、レイトの仕業だな、とシン達からこの話を聞いたカタギリは思った。レイトはそういうやつだった。

「一騎打ちで気をそらすからその隙に逃げろ」と部下達に言ったに違いない。

 

 

 D29年の1月11日。2週間後に起こる出来事はまだ、知らなかった。知るはずもないのだが。


あとがき

 

O2 星輪です。

(飽きてきた人、すいません。)

 

次回は7話「真実の時」ですね…

大詰めです。

ソフィアとライズ、両方のエンディング条件を満たすためにO2 星輪はどうつじつまを合わせるのか?

乞うご期待?

 

ざんげ

デートシーンとか皆無…どうしよう…


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