「俺は……俺は彼女の恋人候補だっ!」
「ぬぅわぁにぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「えっ…!?」
ジョアンの顔が醜く歪み、ソフィアが呆気に取られる。
「きっ…、貴様正気か?ボクはエリータス家の御曹司で、彼女はボクの……」
カッと目を見開き、血走った目で俺を睨み付ける。何処と無く視点がずれていて、焦点もあってない。
「うるせぇっ!人を好きになるのに理由なんかいるかぁっ!」
しまった!勢いとはいえ、とんでも無い事を口走ってしまった。ソフィアの気持ちも考えずに…。
第一、彼女は俺に対して「恩人」くらいの感情しか持ってないだろう。
あーーーっ!俺のバカ!大莫迦!特上馬鹿〜っ!
「おっ、お前…、ボクにさっ、逆らうのか…?許さないぃぃぃぃぁぁぁ!!!」
自己嫌悪に陥る俺と、壊れたジョアン。
頭を抱えながらジョアンの方を見ると、口の端から泡を吹き出し、身悶えしながら地団駄を踏んでいる。
器用な奴だ………。
「ジョアン!」困惑していたソフィアがジョアンに呼び掛ける。
その悲痛に満ちた叫びが届いたのか、「はっ」として我に返る。なんとか体裁を整えるとソフィアに向き直った。
「ボッ、ボクとした事が、とんだ醜態を晒してしまったようだね。ゴメンよソフィア。」
こいつのこの変わり様…。ある意味神業だな………。
妙な事に感心していると、ジョアンが再度、人差し指を突き付けてきた。
「東洋人!今後一切、ソフィアに近付くな!これは命令だ!」
何で貴様に命令されなきゃならないんだ!俺は憮然とした表情を見せる。
しかし、俺の事など眼中に無いらしく、ソフィアに向かって何か喋り始めた。
「ソフィア。ボクのママが君をお茶に誘いたいそうだ。いいね?」
「…………はい…」俯いていたソフィアが力無く返事する。
返事を聞くと同時にソフィアの肩に手を回し、辺りに高笑いを響かせながら歩き出した。
途中でソフィアが俺の方を向き「御免なさい」と言いながら頭を下げる。
その時の表情が、とつてもない哀しみに暮れていた……。
悔しいが、今の俺には何もできない。自分の無力さに苛まされながら、帰路についた。
宿舎に向かう途中、今日言った事をソフィアに謝ろうと思っていた。
あの時の発言に偽りは無い。しかし、会って間もない彼女に対し、「恋人候補」は余りにも軽率な発言だった…。
今度会った時に謝ろう……
そして次の日。養成所に向かう道のりで、露店の建ち並ぶ華やかな表参道にぶつかった。
しかし周りの装飾は、開店前のせいか何処と無く寂しい。
そんな中、肩を落としながらトボトボ歩いていると、目の前に天使が舞い降りてきたかの様な錯覚に襲われた。
「ソフィア!」
思わず大声で叫んでしまった。登校途中の彼女は、声の聞こえた方向を探そうとキョロキョロしている。
俺は迷わず彼女の元に駆け寄り、いきなり謝罪した。
「ソフィア。その、昨日はゴメン!俺、変な事口走っちゃって……」
深々と頭を下げる俺を見て、ソフィアが驚きながらも慌てたように口を開く。
「ア、アスタさん。顔を上げて下さい。私、あなたの事何とも思ってませんから。」
「はいっ?」間の抜けた声を出したと同時に、俺の頭をタライが直撃したソフィアは構わず続ける。
「それに、初対面の方にあんな事言われても…」今度は、機関銃で全身を貫かれた。
「あっ、いけない。遅刻しちゃう!用件はそれだけですか?」更にN2爆雷で吹き飛ばされた。
「それじゃ失礼します。」笑顔を浮かべ俺の元から走り去った。
最後に暴走したEVA初号機に踏み潰された俺は、枯れ葉の様にドルファンの風に吹き飛ばされた。
ははっ、ハハハハハハハハ……。
何でいつもこんなオチなんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
終わり