瞬く間に日にちは過ぎ、日曜日なった。
俺はいつもの様に早めに宿舎を出て、一路待ち合わせ場所へと足を進めた。
昼過ぎのせいか、街中は活気に包まれている。
その街中を抜けようとした時、ふと、見覚えのある女の子を見かけた。
ライトブラウンの髪の毛。黄色いリボン。赤で揃えたジャケットにスカ−ト…。
もしかして…?普段会えないとこの世の終わりみたいに落ち込むくせに、
こういう時にはなるべく会いたくない女の子…
「あら…?お散歩ですか?アスタさん。」急に声をかけられた。
俺が考えを巡らせている内に、彼女が俺の前に来ていたらしい。
と、言う事は、既に俺に気付いていたんだ…。素直に喜べないのが悔しい。
「やっ、やあソフィア…。き、奇遇だね…。はっ、アハハハ…」
妙にどもる。後ろめたさを感じているせいか声まで裏返る。俺の口元はかなり引きつっていた事だろう…
そんな俺を見て、ソフィアが軽く首を傾げる。そういった何気ない仕草が本当に可愛い。
しかしこれ以上顔を弛める訳にはいかない。自分の中での葛藤が始まる。
「あの、アスタさん?どうしたんですか?様子が変ですけど…」
変なのは日常茶飯事…。いやいや、そんな事言ってる場合じゃない。
「いや、何でもないんだ。それよりどうしたの?」なんとか自我を保った俺は、
冷静さを取り戻すようにソフィアに問いかけた。
「えっ…?あっ、そうでした。私、父の用事で此処に来てたんです。そしたらアスタさんの姿が見えたもので……」
そう言って頬を染める。そして恥ずかしげに俺の方に視線を向けた。
可愛い!本当に可愛い!彼女に愛を誓った俺の人生に悔いなし!
「ところでアスタさんは此処で何をしてらっしゃるんですか?」
へっ!?ああっ!しまった!今日はアンとのデートだったんだ。つい当初の目的を忘れる所だった。
しかし、ソフィアにこの事を告げたらどうなる?俺は一生立ち直れなくなるぞ…
(いや、しかし…)再び葛藤する俺。そんな中、俺の口から出た言葉は、
「いっ、いや…。天気がいいものだから、ちょっと散歩しようかなって…」だった…。
俺は彼女に対して嘘をついてしまったのだ。
しかし、彼女は俺の言葉を信じたらしい。何の疑いもなく俺を見ている。
「そうなんですか?あっ、いけない…。私、用事の途中でした。それじゃ失礼します。」
そう言って頭を下げると俺の元から歩き去った。
(はあ…良心が痛む…。でも約束だしなぁ…。ソフィア、本当にゴメン。)
こうして俺は、アンとの待ち合わせ場所へと急いだ。この後に起きる悲劇にも気付かずに…
続く…