シーエアー駅前。約束の時間を20分程過ぎてからようやく到着した。
息も切れ切れになりつつアンの姿を探す。
いた!そわそわと道行く通行人の顔を見ている。俺の事を探してくれている様だ。
俺は、急いで彼女の元に駆け寄る。
「ゴメン!遅くなっちまった…。本当にゴメン!」
開口一番、即座に謝罪した。すると彼女は、困惑したような表情を浮かべながら、
「いっ、いえ。気にしないで下さい。今…今、来たばかりですから。」
と、必死になって俺の過失をフォローしてくれた。
そんな彼女の「優しい嘘」に自分の情けなさを痛感した…。悪いのは俺の方なのに…
「あの…アスタさん…。私、本当に気にしてませんから。」
「……アン……」
優しい彼女の言葉に対して、俺が言えたのは彼女の名前を呼ぶ事だけだった。
「そっ、それより、早く行きましょう」そう言って優しく微笑む。
そうだな…。いつまでも暗くなってたら彼女に失礼だ。俺も軽い笑みを浮かべると彼女に向き直った。
「よし!それじゃあ行こうか?」
「はい!」
今日初めて見た満面の笑みが浮かんだ。季節はずれの海。
周りには誰も居ない。静かに響く潮騒だけが2人を包んでいた…。
「静かだな…」
寄せては返す波打ち際を見て思わず独り言が口をでる。
「そうですね…」俺の独り言が耳に届いたらしくアンも同調する。
すると彼女は、俺の側から離れ、波打ち際へと歩いて行った。
「キャッ!冷たい」
小さい悲鳴を上げながらも楽しそうに波と戯れる。楽しげな彼女につられて俺も波打ち際に向かった。
「うわっ!本当に冷たいな。」
「でも、楽しいですし、気持ちいいですよ。」
そう言って海水を両手ですくう。合わせた両手の隙間から海水がこぼれ落ち始めた。
「私…海が好きなんです。此処に来ると、心が落ち着くんです…」
こぼれ落ちる海水を見ながらアンがポツリと言った。少し寂しげに見えたのは気のせいだろうか?
しかし、俺の思惑とは裏腹に彼女は俯き加減に言葉を続けた。
「此処に2人っきりで来れるなんて、何だか、夢みたいです…」
頬を染めながら恥ずかしそうに言う。
彼女の言葉を聞いた俺は、戸惑いつつも彼女の肩に軽く手を置いて、
「大丈夫。夢じゃないよ…」と答えた。
途端に彼女の瞳は潤みだした。そして、俺の方に向き直ると涙声になりながらもこう言った。
「は、はい…。グスッ、夢じゃ無いですよね。夢じゃ無いんですよね…?」
「ああ…」こうして、俺達は砂浜を後にした…
続く…